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その日はとても晴れた日で 冷たい風吸い込んだ

第39幕

居候というのは本来、代々続く家系からあぶれた者を受け入れて社会的な立場を認めてやる制度である。孤児だったり、事故や災害で両親を亡くしてしまったり、もしくは親子の縁を切られたり等々理由はさまざまだ。

 だが、この様に居候として家に迎え入れるのはそう何度もあるものではないだろう。孤児院とかの児童擁護施設であれば別ではあるが、流石に一般の中流家庭で二人も居候を住まわせるのはかなり無理があると思われる。更に、その居候が地球人じゃないとすればもう、訳が分からなくなってくるもので。
 あたしがこんなにも頭を抱えているというのに、悩みの種の張本人はあたしの部屋の小さなテーブルを挟んだ目の前でお茶をゆっくりとご賞味中 「なにか?」 などとあどけない微笑であたしの精一杯の訴える眼差しを返してくる。いえいえ、何でもありません。翡翠のペンダントがとてもよくお似合いですよ。

「あら、有難う御座います。これも涼子のお陰ですね」

 そう言われた"涼子"こと、朝倉涼子は右隣で正座をし、つまらなそうな顔をしている。こっちも厄介な波動を出していて、八面玲瓏の綺麗な花に囲まれていると言うのに、ちっとも心が休まらないのは何故だろうね。

 茜色の空の下、ひと騒動を終えて家路を辿る影は三つになっていた。喜緑さんはそもそも何処に住んでいるのか、と口走ったのが間違いだったのだろう。適当にはぐらかされた挙句に 「じゃあ、貴方の家に行ってみましょうか」 と提案し始めて 「涼子がどんなところでお世話になっているのか、確かめなくてはいけませんから」 と、まるで保護者のような口ぶりであたしたちに付いて来ようとしてきた。あたしは別に良かったのだが、朝倉はこれを断固拒否する。
 もちろん、喜緑さんがそれくらいで諦めるお方であろうはずが無い。それを認めた朝倉はあたしをつれて走り出したんだよ。そりゃあもう、普通に帰る道のりの七日分は走ったんじゃないかね。
 ようやく巻いたと玄関の前に行けば、翡翠のペンダントを首に掛けたお姉様が立っておられましたとさ。めでたくない、めでたくない。

「あのー、喜緑さん。あたしの聞き間違いだとは思うのですが、今、居候したいと言っておられませんでしたか?」
「言いましたが」


 ・ ・ ・ 。


「あのー、喜緑さん。あたしの聞き間違いだとは思うのですが、今、居候したいと言っておられませんでしたか?」
「このお茶、少し不味いですね。涼子、おかわりを」

 粗茶ですみません。でも、飲むんですね。
 ……これが、これがあたしの必死の抵抗だよ! これ以上あたしには何も出来ないっ、と思いつつ他にも方法があった気がするが、実行したところで打ち返しされて逆転ホームランされていただろう。

「そんなに飲みたいのなら、ご自分で注いできたらどうなの? 私はキョンちゃんと午後の……いいえ、夜のひと時を過ごさせて頂くわ」
「え、ちょっ……」

 喜緑さんに答えると同時に、右手をあたしの左肩に掛けて少し寄りかかるような体勢になり、左手で器用に髪留めを降ろす。あたしの体の線に沿って張り付く朝倉を感じながら、はらりはらりとポニーテールは解かれ、黒のようで茶色の混じる長髪全体に外気が触れる。ああ、すっきり―――などと思っている場合ではない。
 おい、居候。夜のひと時って何だ。そんな時間を過ごす気は毛頭無い。重いから離れてくれ、あんな冒険した後にあんだけ走りまわされてもうクタクタなんだ。自分以外を支える体力は、もう残っていな―――いっ!?

 もう一人分の重量が、朝倉の胴体をぎゅっと抱いてくっ付き。あたしを支える両腕を瓦解させた。

「ちょっと、姉さん。何してっ!」
「ああ、涼子。私は今とてもドーパミンやセロトニンが分泌されています♪」
「もう、勘弁してくれ……」

 
 なんでこうなるんだ? こんな問いを投げ掛けたって、答えは多分、そういう星の元だからで終わるのだろうね。忌々しい。

「ともかく! お茶はあたしが持ってきますからっ!」

 命からがら抜け出して二人に告げると、部屋を後にする。
 テレビに夢中になっている弟がいる居間を通り過ぎて、台所に立つと、湯飲みを探す。ああ、しまった。喜緑さんが使っていた湯飲みを忘れてしまった。だが、いちいち戻るのも面倒だな。あとで洗う手間が少し増えるが新しい湯飲みを使うとするかな。えっと、確か上の引き出しにお茶葉があったはずだ。蓋を取り、それに適量出して急須に入れる。給湯容器からお湯を入れて急須の蓋を閉める。あとは少し待ってから……そうだ、お菓子も出してはどうだろう。って、おいおい、あたしはさっき居候の件を嫌がっていたじゃないか。それでも持て成そうとするのは性なのか、お人好しなのか……。
 春巻きを二分の一にした大きさの、千枚の葉を折り重ねたようなウエハースにチョコを皮膜加工を施したお菓子をお盆に乗せ、お茶を注いだ湯飲みも一緒にしてあたしの部屋に持っていく。

 
 ―――あたしの、部屋?


 部屋に繋がる扉の周りには、青白いような、黒いような、無味無臭の"匂い"が漂ってくるのが肌に伝わってきた。"匂い"は肌を突き抜けて、肉を抜けて、骨を抜けて、身体の芯に突き刺さるように身体の司令塔に警告してくる。心臓が鼓動を早め、ドクドクと血流を活発にしていく。それはまるで、家の中に居てはならないものが入ってきている。居るはずが無い、けれど何かが居るのだと教えてくる。
 一歩、また一歩と扉に近づいていく。お盆を持った両手はガッチリと固定され、動いているのは脚と眼球だけで、他の触覚は在るのかも解らなくなりそうなほどに固まっていた。
 扉を開ける。キィと普段なら聴こえないほどの擦れる音が響く。部屋には喜緑さんも、朝倉も"居なくなっていた"
 奥の、人が通れるくらいの大きさがある窓は開け放たれ、黄色のカーテンが揺れる……なんだ、脅かすなよ。空気が変わったのはこれのせいか。まったく、あいつらは一体何処に―――ん?
 異物を感知した足の裏を確認する。その絨毯の上に在るのは

  ――――――翡翠の、ペンダント

 お盆を置いて、それを拾い上げて両手で抱えて立ち上がる。どうして・・・だって、これは・・・喜緑さんが大切にしていた・・・

「キョンちゃん」

 名前が呼ばれたが、振り向かない。

「もう戻ってたのね。すれ違いだったかな」

 振り向けない。近づいてくる声の主は、最近家の中で最も聞き覚えのある……居候。
 
「どうしたの? お茶、上手に淹れられた?」

 両手をあたしの肩に置く朝倉涼子。それは洞窟の中での出来事を瞬間的に回顧させる。眼をきつく瞑ってその想い出を振り切ると、なんとか冷静さを2割ほど取り戻し、朝倉に問いかける……

「あさくらぁ……」
「なぁに? キョンちゃん」

 その発言で、本当に背後に朝倉が居るんだと認識させられる。扉の前に居たときよりも煩く鼓動する心臓を助けるように、呼吸が大きくなる。

「喜緑さんは?」
「……かえったわよ?」
「帰ったって……何処に」
「何処って、元居たところに、よ」
「元居たところって、お前が元居た世界、だよな」
「…………」

 なんで、答えないんだよ。そこは即答に決まってるだろ。「そうよ」って、さっさと答えてくれよ朝倉。もう一度、聞いたほうがいいだろうか。でも、それは何かを決定させてしまう気がする。でも、聞かなければ。
 あたしが判断しかねている中、沈黙を破ったのは、朝倉涼子だった。

「私も、貴方も原初は同じ、ビッグバン。約137億年も前から私たちはこうして運命付けられていたのかもしれない。だから、安心して? 貴方と私を引き裂く要素はもう無いわ。これから出てきたとしても、私が護ってあげる。そう、誓ったもの」

 左手は肩に乗せたまま、あたしの長髪の半分くらいを横に持ち上げて、ゆったり、サラサラと滑り落としていく。感じるはずの髪の重みは殆どなく。脚だけが、あたしの意思とは関係なくその役割を果たしていたけれど、それは今にも、崩れ落ちそうなのを感じている。視界には、もう……翡翠のペンダントだけしか映っていなかった。だからこそ、朝倉が伝える言葉は鮮明に聴こえてくる。次の言葉も、左耳の後ろでで囁かれるようにして、鮮明に聴こえる。




「だから、信じて――――――私だけの―――キョンちゃん」





































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