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たとえ全てが過去に消えても忘れられない人が居る

第37幕

 スカート越しに感じる冷たさは、あたしを冷ますのには不十分だった。ザラつき、ゴツゴツとした地面があるばかりで、ちっとも落ち着かないのである。
「キョンちゃん? どうしたの、そんなに泣いて」

 泣く? ああ、いつの間にか流れてるな、確かに。すまん、朝倉。髪を汚しちまった。
 瑠璃色の乙女の左腕を残して、トルソーを抱くあたしの手に触れながら、「いいのよ、別に」と許しを与える。でも、いつまでも他人の髪の毛をハンカチ代わりにするわけにもいかない。顔を上げると、あたしたちと同じようにへたりと倒れて手を付く喜緑さんの姿が見える。
 目が合う。どうやら無事なようだ……間に合ったか。
「正直、想定外でした。涼子の思考がこれほど強固だったとは」
「……解ったならさっさと元の生活に戻ったらいいじゃない。私は残るけど」
「ふふ、そうさせて頂きます。でもね、涼子。それもいつまで続くのか、よく考えた方がいいですよ?」
「どういう意味? まだ、やる気なら容赦しなっ……」

 抱く力を強める。

「……まあ、今はキョンちゃんが居るから勘弁してあげるわ」
 あたしが居なくても駄目に決まってるだろ、馬鹿。こんな狂犬を飼い慣らせるほどの度量と器用さ無いぞ。だから、大人しくしていてくれ。
「容赦しない……ですか。なんて好戦的な。涼子、貴方は我々と過ごしていた時にはもっと清楚な子だったのに」
 およよ……と泣く真似をする喜緑さん。さっきまでの殺気が嘘のようだ。
 その姿を受けて、彼女の妹さんは左指で瑠璃色をくるくると弄りながら応える。
「あれは姉さんが居た時だけですー、そうしないと姉さん恐かったんだもの! あんなの続けてたら息苦しくて窒息死しちゃうわ」
「なら、今それを再現しましょうか? やはり、一週間おでん抜きがいいかもしれませんね♪」
「それは…………恐怖だわ」

 お前の恐怖の基準がわからん。

「あっ! キョン子、居たのか! ととっ、なんだよこの白いの。邪魔ったらありゃしねえ!」
 聞き覚えのある、晴れ晴れとした声が岩の壁に跳ね返りながら響き渡り、廃墟の奥にある穴から、お馴染みの面々が歩いてくる。いや、サッカー、野球、運動全般はお手の物と感じ取れるバランスの取れた体格を持った一人は猛烈に走ってきているのだが・・・おい、その勢いだと確実に止まれないだろ? 止まれないぞ? 止まる気ないだろっ!!?

   ドォォォン!

「うりゃあ! 捕まえたぞキョン子! んだよ、来てるんなら早く言えよー、そしたらもっと弄ってやったのによー!」
「イタイ、イタイ! ギブギブ!!」
「はわわっ、だ、駄目ですよぅ! 涼宮くん?!」
 男性だと忘れてしまいそうな優しい声の持ち主が心配して下さっている。
 会って早々タックルをかまして尚、チョークスリーパーをかける奴がいるか!? しかも女の子に! あたしはそこに居る奴らと違って身体も強くないし、武道も文道も優れてないんだ、もっと大切に扱ってくれないかハルヒコよ。
 その願いが通じたのかは分からないが、締まる首元は緩んだ。まったく、今日は締められてばっかりだ。
「ああん? このくらい平気だろキョン子は。だって、SOS団の団員だからなっ!」
  団員になっただけでタックルやチョークスリーパーにも堪えられるのか。そりゃ凄いね。SOS団は全世界の貧弱少年少女たちの一番星だなハルヒコ。大勢団員が出来て、世にも奇妙なオカルト集団の出来上がりだ。そいつは…………恐怖だ。その時は、あたしは抜けさせて貰う事にしよう。
 って、傍若無人のカチューシャ男が無造作に団員を増やすとは思えない。詰まり、あたしの退団は夢のまた夢さ。げんなりしながら遠くを見つめるべく前を向くと、

 あの

 表情の無い

 朝倉涼子が目に入った。





「駄目」

 今にも飛び出しそうに見えた朝倉の目線が、発せられる声の主を捉えて止まる。身長は180センチメートルはある、分厚い本がよく似合いそうな美形の男子高校生が視界の間に立っている。
「……彼女が痛がっている」
「ん……ああ、分かってるよ勇希。ちょっと、じゃれてただけだっての。まさか、骨を折るまでやるわけないだろ」
「刹那、折れるかと思ったぞ、あたしは」
「涼宮さん。それよりも、どうやら探し物は見つかったようですよ?」
「な、本当に?! どこだよ、どこ?!」

 四方八方にカチューシャの付いた頭を巡らす。少しは落ち着けよ、ハルヒコ。

「んなぁに、寝ぼけた事いってるんだよ! こんな不思議を形にしたようなダンジョンなんだから、まだ見つけてない古代文明の秘宝とか、人種珍獣、雨あられ! 世界の全てをここに置いて来たような、お宝が隠されているに決まってるぜ!」
「分かった分かった。とりあえずその辺にして。当初の目的を思い出そう、ハルヒコ」
「ん、何だ。当初の目的って?」
「………………本気か?」
 さっきから手の平で例の落し物、翡翠のペンダントを指し示し続ける茶髪でスタイルの良い女子高生を一瞥しながら、思わず右手が額を支える。やれや―――
「なわけないだろー、ったく、キョン子は俺を誰だと思ってるんだよ。北高のSOS団団長! 風雲の救世主! 涼宮ハルヒコ様たぁ俺のことよぉ!」

 聞いても無いのに名乗り出す。お前なんて、不思議馬鹿で十分だ。

 不思議馬鹿は立ち上がる翠玉の波髪の乙女に近寄っていく。血の付いていた筈の制服も、体の傷も今はもう無い。
「まあ、見つかって良かったな。えっと、喜緑さんだったよな」
「ええ、そうです」
「まあ、これからもこりゃ理解不能っていう出来事が起こったら、いち早くSOS団に相談してくれ! 今回みたいに、即行で解決してやるからさ」

 いや、お前は何もやってないからね!!!

 そんなことは、鬼の金棒が隕石のごとく何発も降って来て、後2発で地球が氷河期に突入するとしても言えない。ハルヒコは両手を腰に当てて、得たり賢しといった様子で
「さてと! あとはどうやって脱出するかなんだけどなー」
「隠された秘宝とやらは探さなくていいのか」
「ああ……なんだか疲れたしな。早く帰って飯くって、風呂入って寝たい気分なんだよ」
「……そうかい」
 それはそれは、あたしも疲労困憊だし。ありがたいね。自分でも表情が少し和らぐのが分かった。

「あの扉が……怪しい」

 長門があたしたちが入ってきたどちらとも無い方向を指差すと、取っ手の付いた岩戸があった…………まさか。
「おお! いかにも怪しいって扉だな。よし、各員、団長に続けぇい!!」
 拳を天高く突き出して歩き出すハルヒコに続き、長門、朝比奈さん、古泉、喜緑さんと続いて歩いていく。む?
「どうした、朝倉。行くぞ?」
「…………ぇ。ええ」
 応えつつも立ち上がる気配の無い朝倉に左手を伸ばしてやる。すると、キョトンとした顔が、一気に笑顔になり手をとって立ち上がった。そのまま腕に抱き付かれるのまでは想像してなかったがな。
「朝倉、歩けないんだが?」
「じゃあ、私がおんぶしてあげるっ」
「いや、もうちょい自分で体重を支えるようにしてくれれば、それでいいんだ」
「うんっ、それ無理」
 お得意の台詞を吐きながらも、普通に歩ける状態にはなる。まったく、世話のかかる・・・。


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