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まだ言わないで呪文めいたその言葉

(20080525AM9:40修正)

第36幕

 薄いトレーナーにジャージ姿で外を歩く。日和風吹くうららかな日差しは、朝の不純物の無いこの惑星の恵みをいっそう心地良くさせる。偶にはこうやって、朝飯のまえに散歩するのも悪くないな。健康を心掛けるなら、歩き方を変えてウォーキングとやらにすべきなのだろうが、そんな元気や気力はないのだ。
 伸びやかに照らす朝日を浴びて、身も心も温まったところで自分の家の玄関にたどり着く。戸を開けて自然と出る、

「ただいまー」
「遅かったですねぇ、キョンちゃん! さっさと手を洗ってくるですぅ!」

 お早う。早いな、我が弟よ。まあ、お前が朝早いのはいつも通り……って、あれ、おい、弟よ。いつから……髪の色、青くしたんだ? しかも腰まで髪伸びて……ああ、あれか。ヤサイ人ゴッコか。凄いなぁ! 最近の遊びはここまで凝っているのか~

「・・・・・・・・・」

 あ、あ、朝倉が小さくなっている!! しかも、声が10歳ほど若く聴こえるのは気のせいであって欲しい。

「失礼ねっです! それじゃいつもの私が可愛くないみたいじゃないっですぅ!」

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 幼稚園生か小学生から高校生、果ては社会人にまで愛される週刊、隔週、月刊誌。それらは全年齢向けだったり、少年向けだったり、女性向けや男性向けだったり各編集元の方針は様々である。さて、私の視線の先には一冊の青年向け雑誌があるのだが。あたしは始めて知ったよ。漫画は地球人以外にも愛されるんだってな。これも漫画家や編集者の努力の賜物かね。そのお陰で、あたしの目の前にはどうにも理解しがたい状況が広がっていた。

「どうしたですかキョンちゃん。そんなシケた顔してたら美味しいものも不味くなるだけだわっですぅ~」

 確実に無理してるのがバレバレなんですがね。

 ソファーの上に抱え込ませるようにして座り、あたしを見上げる子供は確かに朝倉涼子ではあるのだが、緑色のフリルが重なったロングスカートを穿き、アズライトブルーの長髪の上にはレースが二の腕辺りまで伸びる、白の頭巾のヘッドドレスを被っている。その右手にはスコーンというお菓子が持たれていた。そうだな、緑の赤頭巾ちゃんみたいな感じだろうか。

「なあ、朝倉。お前なんで」
「―――いいから早くスコーン食べてっですぅ。元気な朝は、涼子の美味しいスコーンからっ!」
 
 いや、まあ、おでん以外のおやつが出てきたことは非常に嬉しい訳だが、差し出す相手の様子がいつもと異なると、どうにも警戒してしまうものだ。てか、いま朝だぞ、朝! 何でおやつなんだ。
 とりあえず、ひざの上に座っているちっこい朝倉から差し出されたスコーンを、食べかすが落ちないようにゆっくりと唇の間で包み込む。はぁむ・・・ぅ・・・ぅう、ん。お、なかなか旨いじゃないか。

「そお? じゃあ、もっと……あ! ちがっ。あ、当たり前ですぅ! この涼子が作ったスコーンが不味いわけないですぅ! ささ、おかわりは沢山あるからどんどん食べてですぅ、キョンちゃん!」

 一瞬、元の朝倉に戻った気がしたが気のせいだったようだ。せっかくの申し出だけど、朝一番に皿一杯のスコーンを平らげる食欲は無いよ。

「な、な……なんで? やっぱり美味しくなかった……ですぅ? この涼子の作ったスコーンは美味しく無かったですか?!」
「い、いや、美味かったよ……」

 だから、その問い詰めるような目でもみ上げを引っ張るのはやめなさい、ちっこい朝倉。

「なあ、朝倉。な! ん! でぇ! そっ! んっ! なっ! 格! 好! し! てっ! る! んっ! だ! あとテールを引っ張るのを止めなさい!!」
「えへへ~」

 なんて小娘だ。喋りながら頭を揺らされたせいか眩暈がする。いや、きっとそれだけが原因じゃないぞ、これは。
 ポニーテールから手を離し、そのままあたしの胸に抱きつくイタズラ娘。その視線は右腕に注がれている。そうして落ち着いた朝倉は、いつもの声で言う。



「最近、こうやって二人っきりになれること。少なかったから」


 そうかも、しれないな。文化祭の準備やら何やらで忙しかったしな。でも、一度としてこんな身長差や口調で二人だけになったこと無かった気がするんだが?

「んー、もう……可愛くなかった?」

 下から見上げるの禁止ー! 正直言って、可愛かったけど。でもやはり。朝倉はいつも通り、自然体で居てくれたほうが安心するよ。
 ヘッドドレス越しにスッっと手を置き、撫でていると、自然と次の言葉が流れた。

「それに、いつもの朝倉も、好きだし……」

 って、何を言っているんだあたしはっ!? 偶に早起きして散歩なんかしたせいか!? そうなのか?! ああ、今のナシ、ナシ! ああー、もう、聖母マリアも爆笑だっぜ!!

「キョンちゃん……嬉しい……」

 そう言って、ちっちゃい朝倉は胸から離れる。あたしは未だに混乱していて、眼を瞑っている。

「じゃあ、今度はキョンちゃんの番ね!」

 ・・・・・・・・・・・・はい?

 眼を開けると元の頭身に戻った朝倉涼子と青と緑の古めかしい西洋風の服が、それぞれ両手に吊るされていた。何? What? ここは何処? 一体、あたしはどうなるの?

「やっぱりちょっとボーイッシュにいった方がいいかしら……でも、スカート姿のキョンちゃんなんて見たことないし……迷うわぁ……」
「いや、考え直せ、朝倉。大体あたしのサイズ分かってないだろ?」
「何言ってるのキョンちゃん。それならキョンちゃんがきもちよぉ~く、お寝坊している間に測ったわよ? そりゃもう、隅から隅まで……ああ、よく堪えたわ私っ! それに、持っている服を見れば簡単だしね」

 何に堪え切ったのかはあえて聞かない事にしよう。しかし今は、逃げた方がよさそう―――

   ガシッ!

 はい、捕まりました。アレレのレ! そして、顔の横には新品同然の裁断ハサミがかざされており、逃げないで覚悟を決めろと、脅迫しているのであろうな、きっと。というか、自作の手作りかい? 朝倉。
 なぜ自宅で、しかも気持ちのいい朝にこんな思いをしなくてはならないのか涙が流れてきそうだよ、まったく!

「駄目じゃなぁい、キョンちゃん」

 後ろの方から骨に伝わるくらいの距離で、よんどころなくさせる声が聞こえてくる。左腕を摑まれているだけでこんなにも動けなくなるものか。あまり意識したくない、朝倉には豊満に在って、自分には無いものが背中に触れたり離れたりして、神経を集中させてくるのに涙が出てしまうね、だって女の子だもん。
 顔は恐怖で、心は泣いて。朝倉は 「じゃあ、座ってっ」 と強制的にソファーに逆戻りさせる。両腕をあたしの頭の左右に伸ばすと、見える世界は逆光を浴びて黒の混じる藍色の髪が乱れ流れる少女の姿。右手の人差し指から薬指が肩から腕、手首から腰へと伝わっていく。

「大丈夫。私に任せてくれればいいの……よ?」
「任せるって、何をだ。まずその危ない得物をしまいなさいって……ぁ……ん……ちょっと……」

 窓から差し込むうららかな日差しが、いつの間にか晩天の星原の光に変わるまでの出来事を、あたしはよく覚えていない。

 こらそこ、違うぞ。ただただ、色んな洋服を着せられただけだ。日常生活じゃ着れないような洋服をな。って、『覚えてるじゃん』 って言うなー!




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