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今日という地図には行き先も進むルートも書いてなけど

第30章

「な、おいおい……嘘だろ?」

 朝倉なら物理法則を無視して隠れるなんて事は造作も無いだろうが、あたしがこんなにも胸を波立たせているのには理由がある。それは、朝倉が溶けていったように見えたからだ。
 朝倉が通るはずだったガラスの扉の間は蜃気楼のようにぼやけているが、あたしが困惑している間にいつもの玄関に変わったようだ。校長か理事長か、日本の一番偉い人か誰かは知らないが、いつからこの学校は水槽の中に入っているんですか? 改装するにしても、ちゃぁんと生徒と保護者に通知してからにしてくれ。防水準備は大丈夫か? あたしはノーイクイップです。
「どうかしましたか?」
 ―――?!
 振り向くとそこには、いつぞやの来訪者、喜緑江美里さんが存在した。腰辺りまで伸びるウェーブの掛かった翠玉のような髪がなんとも綺麗である。傍から見れば、北高の制服を着た極一般的な女生徒だが、このお方はどういうわけか、先ほど水槽の中に消えていった朝倉涼子とご同類らしい。
 ここで会ったのが幸運か、それとも新たな悪夢の始まりかは分からん。でも、話しておいて損は無いだろう。そう思って、あたしは今起こった摩訶不思議な出来事を説明した。もちろん、ジャーキーの行は省いたから安心しておけ、朝倉。
「なるほど」
 喜緑さんはそれだけを誰に言うでもなく呟くと、風を感じるように眼を瞑り、一編の詩を読むように呟く。
「SELECTサーチモードTARGETディスエリアHAVINGアッシミレイションモード」
 眼を開いた喜緑さんは、問題の玄関へと近づき、五指をぴんと開いた右腕をかざす。五秒くらい間をおいて半身だけ振り向く喜緑さんは、上げていた右手で髪を払い退けながらあたしを見つめてくる。
「……やはり、私たちの観察対象、と言うと少し語弊がありますが。涼宮ハルヒコが関わっているのは間違いありませんね」
「てことは……この中に何かあるって事ですか」
「そうです。厳密に言いますと、私の無くしたペンダントがあります。それを見つけ出して涼宮ハルヒコに渡してあげれば、この現象は解消するでしょう。……貴方は今日、涼宮ハルヒコにお会いになりましたか?」
「いいえ。幸か不幸か、見てませんね」
 後に来るにしても、先に来るとしても。ハルヒコがこの状況を黙って見逃すはずが無い。一心不乱に、この得体の知れない校舎に突入するだろうな。そうなると、些か面倒なことになる。仮に幸運の女神が味方してペンダントを見つけられたとしても、すぐにハルヒコに渡す事ができず、他の生徒が来るかもしれない。そうなったら大混乱間違いなしだ。多くの人に認識されてしまっては、この学校が永遠に学び舎として機能しなくなるかもしれない。
 
 なんてね。

 きっとそんな心配は無いだろう。今、この状況を見ても分かる通り、あたしたちの他に生徒は居ない。ってことは、ハルヒコが無意識のうちに人払いでもしたのだろう。もしかしたら、この現象を起こすために部活の休みや曜日まで変えてるかもしれないが、こればかりは願ったり叶ったりだ。のんびり探させてもらおうかね。
「貴方も行きますか?」
 そう聞かれて、喜緑さんの後ろの校舎を見上げる。普段と変わらないはずの校舎が、一夜にして意味不明なものへと生まれ変わった。その雰囲気は、子供の頃、夕暮れ時に一人で帰る時に感じた、周りを信じられない感覚に似ていたが、あたしの答えは変わらなかった。
「もちろんですよ。不本意なことで、ハルヒコの余興に付き合うのがあたしたち団員の務めらしいですから。ずっと学校がこんなんだったら、偏差値はガタ落ちで、宿題が増えそうで嫌ですし……それに、朝倉を放って置けませんしね」
「それでは」
 文字通り、校舎へ消えていく喜緑さんに続いてあたしも歩き出す。ガラス扉の狭間にある波紋を抜けるとそこには


「――――――ワンワン! ワンワン!」


 なりきり! 犬耳と尻尾は完全装備、首輪もあるよ?! になっていた朝倉が居た。





 な―――デ カ ル チ ャ ー ! !



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