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小さな小さな部屋で広がる無限ページ

第21幕

 2人というには語弊がある。でも瓜二つなのだ。例えそれが 男 と 女 だったとしてもね。

「えっと・・・長門?」

 気が付けばあたしは、片方で取っ手を掴んだまま扉にしがみ付いている。えっと、そうだな。人間、ここぞと言うときはしがみ付くものなのさ、扉に。男の長門のほうはいつも通り、パイプ椅子に座り背筋を伸ばして綺麗な姿勢だ。女の…というか女の子だな。あたしと同じか、それよりちょっち低い身長だ。うむ、こういう長門も可愛らしくていいかもしれん。小動物らしく―もちろん心細く周りを伺って警戒しているような様子は皆無―こう、今すぐにでも頭を撫でてやりたいね。そうしたら、そしたらピタッとすり寄って来たりしてな。まさにアニマルセラピー with 長門。…ほら、よく見てごらん。頭の上にちょこんと乗った黒いお耳とGOGOキュートな尻尾がヒラヒラ舞っているだろう?これこれ、長門。あまり尻尾を暴れさせるとスカートの中身が見えちゃうから落ち着きなさい…落ち着きなさい あ た し。

「私にそのような生体機能は無い」

 大脳の検査、または交換を要請…などと言われそうだ。いやはや、それでこの状況を打開できるなら喜んでお受けするよ。はぁ…いつまでも扉にしがみ付いていては変人に思われてしまう…部室に入り、扉をゆっくりと閉めると、カチャリと取っ手横のラッチが鳴る。さて、我は説明を所望する。長門、この可愛らしい長門は誰なんだ?勿論、お前のお仲間だって事はそこはかとなく分かるぞ。

「彼女は我々と同一。しかし差異が生じる」
「と、言うと?」
「彼女は我々の世界軸とは異なる世界軸で存在している」
「・・・えぇと、詰まり・・異次元から来たって事か?」
「根源は同じ。ただ、性別が全て反転しているだけ」
「全て…って」
「彼女は僕が女だった場合の僕」

 それって、あたしにも男の場合のあたしがいるってことか・・・?うぅ、想像がつかんし、考えられん。ともかく、この子は・・・うぅんと、名前は無いのか?
 そう聞くと、対面して話しているあたしと長門の間に居た無表情の可愛らしい長門が口を開く。

「ユキ」

 ユキ・・・由貴?雪?柚木?なんだろうなーと思っていると、北高のセーラー服を着た少女はあたしの左手を掴み、その手のひらの上で可愛らしい長門は指先で何かをなぞる・・・少しくすぐったい…って、いかんいかん。何を書いているのかよく見ると有象無象の "有" に韋提希や希ガスハイドライド分子の "希" …うん、自分でも何を言ってるのか分からん。夢と希望の "希" の方が50倍分かりやすい。分からない人はそこら辺を歩いている格好良いお兄さんや綺麗なお姉さんに聞いてみよう。きっと、不審がられるぞ!?

「有希・・・か」
「そう」

 透き通る深い瞳と視線が交わる。・・・うん、悪い子じゃないんだ。何となくだけど…そう感じる。

「よし。じゃあ、有希。何で有希はここに着たんだ?」
「・・・・異常発生した複製体を消去する為に来た」

 おっと、いきなりプリティフェイスに似合わず、物騒な物言いで…。まあ、詰まりあたしはそれを手伝えばいいんだな。どうせ、ハルヒコが何かやったんだろ。まったく、忌々しい奴め。…待てよ、有希の世界ではハルヒコは女なのか・・・容姿端麗、成績優秀。それでいて自分勝手で超行動的。厄介なのは変わらないな、こりゃあ。

「もう終わった」
「っへ?」
「涼宮ハルヒ、涼宮ハルヒコ両名により異常発生した複製体の処理は完了。今は再発防止を兼ねた情報の共有化を図っていた。後は投入したバックアップを初期化するだけ」

 ぞわり・・・と、嫌にねっとりとした汗が流れる気がした。複製体・・ああ、朝に古泉が言っていたドッペルゲンガーってのはこの事だったのかそうか、これであたしがもう1人のあたしに消されるようなことはなくなった訳だ。よかったよかッタ・・・

 ―――違う、そんなことじゃない。

 あたしのことじゃなくて・・・"バックアップ"という言葉。・・・バックアップ?それを、何するって?いや、そもそもあいつであるとは限らない。

「・・・有希、バックアップって?」
「今回発生した複製体の数が膨大で私1人では処理し切れなかった。だから補助プログラムを実行。以前のデータからバックアップ "朝倉涼子" を再構築。また暴走し障害をもたらす危険がある為、情報連結の解除を行う」
「まてっ!・・・待ってくれ、有希・・」

 思うより早く、声帯が震えていた。それは何かの危険信号なのか、脊髄反射のように出た感情は処理するのに少し時間を要した。両手を強く握り締めて震えを押さえつけようとする。少しづつ、落ち着いてきた。

「なに?」
「あいつはさ、朝倉は・・・障害になるとか暴走するとか、もう…無いと思うんだ。ほんの少しの間だったけど、この通りあたしは生きてるだろ、だから・・・」
「それは私が行動制限プログラムを掛けていただけ。朝倉涼子はそのプログラムを解く危険性もある」
「そうなる前に・・・てか」
「そう」
「もう少し…待ってくれないか。あいつはそんなに悪い奴じゃないんだ。朝倉が前に何を起こしたのか、あたしには分からないけど、本人は反省してる・・・あたしはそれを許してやりたい。何億万回謝ったって、反省したって許されない事ってのは在るかもしれない。でも、あたしは信じてみたい。いや、信じる!朝倉涼子の事。だから、消すとかそういうの・・やめてもらえないか…有希」

 無言の闇が逡巡する。一気に言葉を発したせいか、それとも別の要因か…分からないが心臓は脈を打つ早さを加速させている。きっと、30秒も立たなかっただろう。でも、その時のあたしには500秒くらいに感じられた。正面に立つ、ほぼ同じ背丈の少女は真っ直ぐあたしを見据えている。長門はあたしと有希のどちらとも無い空間を見つめていた。

「貴方にとって、朝倉涼子は必要?」

 ああ、必要だ。

「・・・」

 有希は無言のまま扉の方へと歩き出す。

「あ、おい、有希―――」
「朝倉涼子の情報連結を解除するには、有視界に捉えなければならない」
「え・・・」
「でも、もう時間が無い。行方が分からない朝倉涼子を視認する事は不可能」

 顔だけ振り向かせた少女は、確かにそう言った。気のせいか、少し・・・笑っていた気がした。

「サンキュ・・・有希」

 可愛らしく、凛々しい長門は扉を開けて去って行った。と、震えていた全身の緊張が解けたのか、力がふっと抜け、長机のところにあるパイプ椅子に倒れこむように座る…女としてあまり褒められた格好じゃないかもしれないとも思ったが…ふあ~、何とかなったか・・・朝倉、世話の掛かる奴だよ、まったく。

 でもまあ・・今日の夕飯は、おでんでも良いかな。




   バタンッ

「おい!今の誰だ?!もしかして依頼人?なんで引き止めておかなかったんだよ!?」

 いきなりやって来ては騒々しい、我らが団長様がまくし立てる。さっきので精魂を使い果たしていたあたしは、そんな質問に答えるのはとてもとても面倒だったのでこう答えた…

「長門だよ。長門、有希」

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