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恋の抑止力 ほらGameが始まる

第85幕
 アホ毛が一本の飛び出たオールバックに真っ白なスーツを白いワイシャツの上に羽織り、下半身はこれまた真っ白なスラックスが鯉を得た水のように走り抜けようとしているこのアーケードの全長は約二百メートルある。
 こっちは大体半分ほど歩いたところで止まったから、ホワイトバレーのレバーの反対側が傷む前にはここまでたどり着けるだろう。おそらくかくれんぼで数える時間よりは短いはずだ。
 その前にあたしもたどり着かなければならない。先のほど起こした朝倉の行動の真意。
 対有機生命体反則的改良ヒューマノイドインターガンメンでも捕り物を失敗してしまう可能性だってあるだろうし、そのときのためにあたしが居るのだ、そうあたしが変わりにとっ捕まえなければならない状況になる。いわゆる保険。明日の味方を叶えるための長門の味方であるなどと考えてはみたものの、あたしが長門にとってどれほどの力になれるかと考えれば丼屋でお持ち帰りをした際に一緒に入れられた十袋もの七味の小袋ぐらいに使い道に困るほどのもので、お役に立つのは炒飯ライスのライスというモンジぐらい要るのか要らないのか、大事なのかじゃないのか分からなくなる代物であることは、いやはや間違いないのは確かなのだ。なら、考え方を変えてみたらことの重要さが浮き彫りになること間違いなしに思えてはきませぬかと、どこの誰に話しかけるでもなく自分への売り込み文句ではじめようとしてみれば、頭の改札出口に並ぶ先頭打者は朝倉涼子の親方殿で、かのっじょとのこれからの生活を考えてみる結果と相成りまする。
 はてさて、先の行動。
 路上を彩る針葉樹に押し付けられたときにはほんに驚いたこと、驚いたこと、なんせ背中が異体の痛さ、自然を支える緑のカラダは生命力を固めたものであることを合点承知させられる代物であった。普段の朝倉は、自分で言うのも胸の上からざわざわと見えない寄生虫が這い上がり心揺さぶる気分であるが、あたしを大切にしてくれていると得心している次第。
 その朝倉があたしのカラダに痛みを与えてまで行動に出ることが今までにあっただろうか、あいや、これがありましたよと言わざるを得ない、内臓記憶装置の再生ボタンが照らし出すのは水着を買いにいくときの路上だ。表情を思い返してみるならばあのときの朝倉は遠方の友人を訪ねて見つけた喜びとも、積年の思いを募らせる怨敵を見つけた喜びとも取れる表情だった。たったさっきの針葉樹発生命力前での表情は、二人きりのときに手渡した入部届けを翌日に数人監視の中で手渡しで返される悲しみのような、全力全壊の高濃度圧縮砲を撃ち終わったあとに仲直りできなかった切なさのような情を表していたのではありませんか。
 あたしは拒絶した。
 朝倉のことをどう思って接してきたのか。軒下に捨てられた風を装って住み着いた手間のかかる犬猫のように思って接していたのではないだろうか。朝倉涼子に犬耳、猫しっぽ、しっくり来るのがたまに毒だが毎日でも飽きさせないように努力する朝倉を思うと中毒性を感じることもあるかもしれないってのは要らぬ轍を踏むことになってっしまったようだ。イヌのように常に寄り添い歩いては、従順なそぶりも見せないネコのような気まぐれを適度にあしらい、明日へ見送り、両の手で伝わらせてくる朝倉の気持ちを見ないように、居候の恩返しが過剰表現された程度に思いとどめていたのだ。
 唇と唇を合わせあう行為は感情表現ヒエラルキーの中でもかなりの上位。高い難易度であるとあたしは格付けているが間違いであろうかそうであろうか、そもそも先ほどの行動が唇と唇を合わせあう行為へと至っていたかは定かではないから朝倉が思っている感情が世にはばかる裁定を逸した感情であると言える訳がない。などと思える訳がない。思える輩がいるならば橋の下の河川敷で河童や星や金星人に挨拶してくるといい事があると取りいだしたるはあたしの占い。
 幸か腐葉土か、世の裁定を逸した感情とやらを古泉一姫のさりげなく置いておいた本をあたしが読んでしまうのを観察しよう研究会なぞという策略で、略式の知識は諦観済みだ、ああや澄み切った空など存在しないと楔をさして錯綜するこの世の中で出会うこのまれな事象に、よもやあたしが突き刺さるとは思いもよらなんだと言うことだ。
 
   あたしは、朝倉とどうなりたいのだ。

 陽いずるころに毛布を取られることもなく身体を揺さぶって優しく起こされ、寝ぼけながら朝食を、意識のはっきりとしている朝倉と弟と摂った後に、朝倉に髪を結われて身支度を整えたなら適度に離れた距離で腹の足しにもならない話をしながら登校して、授業が終われば朝倉がSOS団に時々乗り込んできては一緒に下校してハルヒコの横暴に対する文句を言ったり、古泉の節度のなさに嫌気がさしたり、朝比奈さんの麗人さにこの世のメッカを幻視して、長門のししおどしにも似た心洗われる情景の変化を楽しみながら、陽沈むころにはソファーでうたた寝しているあたしを自分のベッドに向かうように静かに注意してくれる。休みの日には話題の映画でも、デパートでも、ウィンドウショッピングでもして過ごす。そんな家政婦まがいの朝倉がいる日常を望むわけではある、が。
 無理なお話、成し得やしない。
 実際には、暑苦しさで朝を起きる羽目になったり、覚醒しきった朝倉の暴走トークを置きぬけにお見舞いされ、登校時に足を使う以外の胆力を使い果たし、SOS団ではハルヒコと共に活動内容にいらぬ盛り上がりを与えつつ、古泉とはなぜかそりの合わない姿に肝臓あたりを傷めつつ、朝比奈さんの童心のお心を観賞せしめれば、長門の静けさに落ち着きを取り戻し、母の居ないときだけ揺れ動く朝倉に四苦も八苦もクックジョー。休みの日などSOS団の活動と相まって、それはそれは実に想像しがたきことになるだろう。
 でもそんな放蕩無頼な日常も、日々を支える赤紫色の液体が飛び散る日々よりずっといい。
 飛び散る方が言いと言うなら、新たな星でも開拓してしまえばいい。あたしは平和ボケが一番だ。

   さりながら、有為転変は世の習い。禍福は糾える縄の如し。
   
 何が起こるかなんて、「時は加速する」と宣言し、特異点を経て自身の運命を見せてくれる神父でもいなければ知る由もない。なら、出来うる限りマモっていくだけだろ。自身のルールと世のルール。それで福助がおいでなさるってんなら安いものじゃないか。

 さるほどに、アホ毛が一本の飛び出たオールバックに真っ白なスーツを白いワイシャツの上に羽織り、下半身はこれまた真っ白なスラックスを着た男はあたしたちまであと軽乗用車三十台分ほどまで迫ってきていた。
 あたしの心の整理は付いた。付いてないのは話す機会。
 それに、朝倉があたしの身も憚らない行動に出た原因も分からない。
 それでは見当違いの言葉で、また以前の冷凍時代に逆戻り。離談必至を防ぐマナカイトをいらっしゃりまするよ。
「キョンちゃん、これを」
 背後から頭に取り付けられたるは、ヘアバンド。異形の正体を確かめようと手のひらを転がしなでてみれば、やぁや、なるほど。おそらくこいつはネコの耳。国際的にはK E M O N O M I M I .
 こいつは装着するものを選ぶ言わばのろわれた耳。老若何女誰でも似合うものではない。果たしてあたしには似合っているのだろうか。
「大丈夫。顔も小ぶりだし、身体もスレンダーでとってもネコっぽいから自信を持って『止まってくれニャン』って叫ぶのよっ」
 自分の気持ちが一番大事だと時に言われたりもするが、この外見の問題は他人からの意見を尊重した方が身のためだ。なら、あたしの今回の見せ場として宿命を全うして見せよう。
 北高ではない紺のブレザーとネイビー、ブラウン、グレーのチェックスカートの制服の紐ネクタイをさせられた白いワイシャツを身に纏い。脚は内股、腰は中腰、左右の手は軽く握って手首だけを前へと折り曲げ腕を上げる、この時左右の高さは非対称に、首は言葉と共に傾げるように、そして一番は本当は言いたくないけど貴方のためなら言うという気持ちを込めた恥じらいの笑顔でポニーを揺らす!


  『止まってくれニャン♪』





             その後、彼女の前で立ち止まる姿を見たものは誰も居なかった。

「キョンよぉ! てめーのチカラはこの白き閃光騎士の谷口様にゃ及ばなかったなぁ!」
 頭蓋骨だけは評価できる頭部が振り向きざまに理解したくもない語彙を響かせてドンブラ効果で過ぎ去っていく。せめて、白河夜船に乗りたかった。
 あたしはネコの耳を取り外して綺麗なタイルに投げつけて言った。
「何がネコ耳だ! こんなものが世界を救うわけあるか! 他の世界で何べんも使い古された手法じゃないか! そんな視覚的効果をこりもせずに使うお前はアホウのコウノトリか! もういい、誰か冷水をぶち掛けてくれ。例えこのネコ耳が世界を救ってもあたしは救われない。スクイズで百点はなまるマークつけて、天丼付きの浸け麺を食うわせてあげるから! いや、いっそのことあたしを異性人扱いしてくれハルヒコ! それにスレンダーで似合うってなんだよ。それって、それって、ぜんぜん嬉しくないんだからっ! だって、だって――うわあああ、駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ! 逃げなきゃ駄目だ! 逃げなきゃ駄目だ! 逃げなきゃ駄目だぁ! うあああああああ!」

 水も食料も蓄えていない身体で登頂しながら水桶を担いで走り屋気分の俺ではあったが。今この瞬間この足をどちらへ向ければいいかは目に見えて分かった。
 そう、しゃがみこんで頭を抱え膝の上のチェックスカートに顔を突っ伏して固まる団子娘のほうである。
「っくっは……はぁっ……古泉っ、谷口を頼む」
「お任せ下さい」
 短く返答した後に古泉は走り続けていく。
 その姿を見ると共に、団子娘の前でおなかを減ったことを思い出しながら息を整えた。
「落ち着け、お前のネコ耳ポニーは少なくとも、俺の心に割り込み機能で貫いてきたぞ」
「ギガ・ポニー・ブレイクゥゥゥ!」
 と言う名のただの頭突きが、入れたて熱々のコーヒーを到着したてのジャイアンパフェ苺と桜のフランソワーズにかけるくらい容赦なく去りゆかせる青春の味をかみ締めるほどの威力でみぞおちを的確に貫いた。
 っく、悲しいけど俺、吐けるほどのものは食っていないのよね。

 団子娘は、全力で全壊した。






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