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落書きの教科書と外ばかり見てる俺

第81幕
 あたしにとっては少し重めの引き戸を閉めれば、機内の先端に太りすぎても痩せすぎてもいない男子二人、左右それぞれに座っている席が見えた。
 防音材でも仕込んであるのか、バタバタとした二基のプロペラ音はパタパタとしか聞こえない。先に出た朝倉が二人の席へと向かうのを見やりながら引き戸の壁にポニーテールの天辺を潰さないよう寄りかかって腕を組み、少しだけ目を閉じれば、中学時代の運動会に屋上の日陰でうたた寝していたとき響く、旗がたなびく音を思い出す。今時の運動会は、旗を鉄柱に掲げることなんてしないのだろうか。
 頭の中の時間的故郷を懐かしみながら、詮無いことだと思って青髪ダーティーの行方を追った。そんな風景を思い出しても、下着を着替えさせられるという行為をやっとこさ死守した代償のどこぞの学校か分からない制服の下に着こなしている水着のいずらさは拭えないのである。
 じゃあ、着替えたらいいのにという声が聞こえるな。
 そうだな。いまなら朝倉も居ないことだし、そうするのが妥当だろう。
 朝倉が右側の操縦席らしき背もたれの肩に右肘をのせて気さくに話しかける声を聞き届けながら引き戸を開けた。

「どう? ブラッピ。フライトは順調かしら」
 常夏孤島の観光旅行者にしか見えない格好にアーミーカラーのヘッドセットが意外に似合っている古泉一樹に話しかけてみた。古泉一樹は私の顔をみて戸惑っているのか驚いているのか分からない表情をしてから息を少しは居て止める声を出し、
「ええ順調です。恐いくらいに雷魚も飛び魚も飛んではきませんよ。もしかしたら僕たちは隔離された海の上を永遠と飛行しているのかもしれません」
 航行も口上も順調らしい返答を聞きながら、対岸に座る彼を顔だけ動かして視認する。
 御多分に漏れず。
 彼の両眼は周辺は可愛くない番犬のそれだった。
 どこにでもありそうなその顔に
 ヘッドセットは大きめで、似合っていない。
 私は表情を緩めたまま、異常なほど月明かりの導で照らされた航路を見やる。
「"組織"の殻がなければ、あなたは安心することは出来ない? ブラッピ」
「……そうですね。当たり前のようにあった殻ですから。自分の力で殻を割ったのであればともかく。いつの間にやら殻がなくなってしまうのは少々心細いです。殻を割る力をつけることなく外に放り出されているわけですからね」
「卵の殻を破らなければ雛鳥は死んでいく。私たちは雛、殻とは世界だと、どこかの赤髪生徒会長は言っていたわ。いつかは破らなければならない殻だったのなら受け入れて新しい世界を歩き回ってみた方が懸命じゃないかしら」
「それもそうですね……」
 その言葉のあとに、防弾加工されたフロントセラミックスと電子計器越しの水面がいくつも流れて消える。それと共にいらぬ考えを消し去ったであろう古泉一樹が言葉を続ける。
「それでも、僕は自分で殻を壊したかったですよ」
 自己の力を確かめたい。自己の力を信じたい。
 その点において、私は古泉一樹と同じなのかしら。
「なら、殻を壊していった本人を越えていくことね。そうすることでしか、貴方は世界を革命することができないわ」
「まるで、貴方は殻を破ったような口ぶりですね」
「とんでもないわブラッピ。殻を破るどころか、殻を破ろうとしたら殻の中の別の雛にやられたり、殻を破ったと思ったらまた殻を構成されたりしてるのよ私は」
「おい」
 痺れを切らした雑用犬がうめき声を上げた。
「さっきから聞いてれば、殻を破るだの破れないだのスクランブルエッグにはマヨネーズよりも小倉が最高だの殻を着るだのって、まったく殻着てないやつが何言ってやがる。ドラゴンエッガーみたいに腰と胸周りだけしか殻着てないやつが何言ってやがる」
「平和の使者よ。何も仕込んでいないのが丸分かりで合理的でしょ?」
「いや、ホルスターぶら下がってるから。一番見たくない形状の柄がはみ出してるから。早く着替えて来いよ。恐怖のやり場にも、目のやり場にも困る」
「キョンくんって、むっつりだったんだ」
「何がだ、どこがだ。それって、ズルくないか。むっつりでもいやらしい、オープンでも変態。男にどうやって言い返せってんだ。俺は露出狂と一緒の仲間にされたくないだけなんだがな」
 着替えて来い……か。
 性別が違うだけで、こうも気遣う言葉が似るものなの。これじゃ、本当にキョンちゃんが好きなのか分からなくなってくる。いいえ露出度の高い格好をしていれば大体はそういう反応をするものでしょうから、関係ないわ。それも一種の殻なのね。
 椅子に座って身構える彼を左側にして私はショルダーホルスターを脱ぎ、左手を伸ばしてぶら下げた。
「キョンくんはズルい女はキライ?」
「出会ったことがないからな。どうだか分からんさ」
「意外とイイモノかもしれないわよ?」
「どうだか」
 過去の私が導き出した、彼を殺めようとした行動。彼を刺した行動。その二つは私が納得した上で起こした行動だった。一つ目は自分の為。二つ目はプログラムに基づく守護対象の為。たまたま目標、障害が重なったのだ。運がなかったわねと言ってしまえば、私は投げ捨てることが出来る悩み。でもそれじゃ解決しないのよね。地表に出てる草だけ刈り取っても、質の悪い雑草は何度でも葉を伸ばしてくるもの。"根" ごと、刈り取らなければ――――

   ――ッ call noise cancellation. 

 思うより早く、右手で顔の半分を覆った。
 違うわよね。キョンちゃんが言いたいのはそういうことじゃないわよ。"根" を刈ることじゃない。"根" を花、大樹に変えること ――――面倒だ―――― そう、面倒だけど成し遂げたなら。新しい私が見えてくる筈 ――――許してくれる筈がない―――― 許されるとは思っていないわ。そんな都合の良いことを有機生命体の世界は許すはずもない ――――他種が居なければ関係ない―――― そんなの、現実味がないわ。私と世界じゃ差がありすぎる ――――諦めるのね―――― 諦めの言葉にしか聞こえない? 私は逆よ。立ち向かう意思に聴こえるわ。世界の樹を育てるのが神とやらの仕事なら、私は私の世界を育てるまでよ ――――神に仕えるのね―――― だいたい神なんて信じたくないわよ。勝手に縋って勝手に捨てられた気になっていた。そんなことを統合思念体から生み落とされてもまだ続けている? 私の世界に影響を及ぼさない奴なんて知りはしない。私が創るのは私の世界、在るのは私と天地だけ! だから、手を握り返してくれた彼女の意思をマモって大地にしてみせるわ。これが、私の現実だから。

 私は、右手をゆっくりと下ろした。

「キョンくん。今から言う言葉はいつ変わるかも分からない。明日には違った行動をとるかもしれない。明日には行動をとらないかもしれない。けれど、言わせて」
 伸ばした左手はそのままに、カラダを彼のほうに、偽物の瞳を彼の両目に向けた。
「私、朝倉涼子はもう貴方の生命活動に支障をもたらす行為を成さない。だから、安心して」
 彼は少し驚いていた。
 でも、迷ってもいる。
 いままで、警戒していた相手が面と向かって言ってくるのが、命を狙わないから安心して。信じられるお人よしなんて、そう出会えるはずもない。居たとすればそれは野性の本能が欠けた生命体だけでしょうし、居たとしても他人の言葉を絶対に信用できることは在り得ない。それは、私も含まれるのよね。
 それでも彼ならと、確証のない希望が生れてきてしまう。彼女と似ている彼ならと。
 彼は、深く息を吸い込んで、長いため息をつく。
「まー、怪しみ続けるのも疲れるしよ。いつかは怪しみ疲れちまうときが来ると思っていたけど、こんなに早く来るとは思わなかったな。確かに、お前は俺に危機をつき付けたが仲良くしたいっていうならもう恨むこともない。俺はこの通り元気に過ごしてるわけだしな。元気かどうかは多少疑問はあるけれど。昔のことを盾に自分が優位に立とうなんてことも思わない。キョン子もなついているみたいだし、信用もないわけじゃない。でも、今度狙われたなら俺はもうお前と縁を切るぞ」
 彼は、差し出したショルダーホルスターを押し返すような仕草をし、
「もしおまえがAAランクプラスの容貌を盾にそんなことを言っているんだとしたら、お前は……ズルい女だな」
「ありがとう……でも――




――AAランクプラスって何?」
「谷口に聞いてくれ」





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