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自分だけの為に出し惜しみしてた 愛も僕の心も熱く変われ

第80幕

 私たちが乗り込み等加速度運動を続けている飛行体の中で一般的旅客機における徳用等級よりも安い造りと言えるビニールソファの上でキョンちゃんと並んで精神弛緩を行っている。
 向かい側にもあるビニールソファには私たち二人からみて少し斜め左側に隣の上級生の肩を慰める私服姿の涼宮ハルヒとそれに振り回された他称マロンヘアー優等生、朝比奈みくるが肩口の開いた桜色のワンピースで収まっていて、まぶたの下の赤化粧は有希を連れ去られてしまった責任がさせたものでしょう。有希が連れ去られているのを気付いていたとしても、朝比奈みくるでは状況を打破することは出来なかったのだからまったく無駄な責任感だと思うのは間違いかしら。朝比奈みくるは責任を感じすぎる。背負わなくてもい責任すらも、唯々諾々と泣くために受け取っているなんて無駄じゃない。それに一体何の意味があるのだろう。
 キョンちゃんなら答えを知っているのかしら。
 その問いを、声帯を震わすことなく手のひらの生熱だけで伝えてみようと右腕を左側にいる彼女の純白のブラウスと肌の上に来ている水着越しのおなかの上に這わせてみる。低反発マットなど比較にならない絶妙な柔軟さが標準セットされたうねりを味わいながら自然と肩に私の頬が触れて手は沈み、有機生命体の特徴的な生命拍子を感じ取る。そこにキョンちゃんの意思は伝わっては来ないが、電車内で酔っ払った乗客が寄りかかってきたのを見取る半目をしていたから私に対して何か言いたげで私の発言を待っている様子であるのを感じ取れた。
 特に意味なく瞳を見返す。
 私の頑なな意志を受け入れたのかキョンちゃんは”あ”のカタチでつぶらなリップを三割開口で止めてから、なんだと言った。
 その一言が蝸牛管から擬似大脳までを通るまでの間、水みたいに柔らかい草原に変換されて先ほどの疑問が入ったバスケットを放り出してしばらく包まれていたくなる。

 有希はきっと、あの人と共に存在している。

 あの人に遭ったら、もうこの草原を感じることも出来なくなるかもしれない。それが、なおさら青々と茂って天の道の上で燃ゆる恒星の力をじんわりと伝えてくる情報を手放しにくくさせているのね。私にしては、分かりにくい情報だけれど。
 おなかの上にあった右指先を滑らせて、ブラウスの上に羽織っているブレザーにつく右ポケットの控えめな出っ張りを擦り、キョンちゃんは本当に有希を助けに行くのかと声帯を震わせた。
「行けば、きっとあの人が待っているわ。行かなければ私はキョンちゃんとずっと一緒に居られる。建て前を取り払えば私はそれだけでも十分生きていけるの。他の事象は信用できないけれど、キョンちゃんは信じると決めたから。だから、キョンちゃんさえいてくれるなら安寧とした生活を送ることが出来るわ」
 しばらくキョンちゃんは左手で首にかけてある瑠璃色を弄り、下唇をアマガミしつつ考え込んでから、
「好意の部分だけを受け取れば悪い気分ではないけれど、でもやっぱりそれじゃあ駄目なんだよ。あたしたち二人だけじゃ生きていけない。水があって、大地があって、植物があって、動物がいてその上であたしたち生きていける環境が成り立ってるなんて前提は置いておくとして。あたしたち二人だけじゃ変化がなくなっていくだろう。水道水だって器の中に留めておけば一日で塩素は蒸発して三日もすれば腐り始める。あたしたちは一つの器の中で留まっていたとしても試行錯誤でいくらか腐敗は遅らせることは出来るだろうけど、最後の最後には腐敗してしまう必然だろうさ。だから流れなくちゃあならない。岩を削り、他水と合流し、生物に生命を分け与えて何かを得て、何かを伝えていかなくちゃあならない。それを繰り返してきたのがいまの地球というか、宇宙じゃないのか? それを勝手に断ち切ることはあたしには出来ないよ」と開口する。まあ、ただ蓬莱山から白いヌンチャク振り回しながら天体望遠鏡で眺めているやつの戯言だから、正しいわけじゃないけどなとも付け加えた。

「知らないわ、そんなの」
「おー、パスが返ってオウンゴールですかな」とキョンちゃんが返す。
「元クラス委員長だった私に、交流することの説教をしてくれるなんてずいぶん私にサービスされたい? ねえ、サービスされたい? 交流するのが視野を広げることになるのは分かっているわよ。でもね、それはあくまで有機生命体の問題よ。その真似事で違和感なく過ごすためにやっていただけなの。だからもう十分でしょう。あたしたちぐらいが流れからあぶれたって誰かが困るかしら、困ったとしても関係ないわよ、私たちが最上の選択をしたと思えるならそれで申し分ないし、させないわ。だいたいそんな世界の流れを思って過ごすなんて、世界に使役してるみたいで歯がゆいとは思わない? 私は思うわ。自分の一メートル周りも幸せに出来なくて何が地球の交流よ。理想過ぎるわね。二人で理想を過ごし築きたいって提案しているのになんて言うか、私はそんな返答を望んでいたんじゃないのに、まったくどっかズレていて、そんなことだからキョンちゃんは私に好かれるのよ」
 いつのまにまに、私は立ち上がってキョンちゃんを見下ろしていて、私が言い終わるのを待ってから同じように立ち上がったなら、きっと次は謝罪の言葉が来るでしょう。
 しなやかに首元まで伸びるもみあげを手ぐしで梳いて伏せていた顔を持ち上げてキョンちゃんは言の葉プレゼント。

「じゃあ、彼と仲直りなぞをしてきなさい」

 もみあげを梳いてはいない左手でサムズアップで後ろ差し、私のココロ空の間に間に。
 無防備な言語野は、えっ、と聞き返すほかなかったわ。
 なぜと私が聞かずともキョンちゃんは、「二人で理想をってことは二人の理想を築きたいってことだろう。なら、あたしは朝倉と彼が仲直りしてくれないと幸せじゃあないよ。ほら、やってきなさいな」と理由を述べる。
 いや、あの、そのと私は惑い。
「行かないならばポニーテールは解けない! ってやつだ朝倉。彼と仲直りするまで、風呂に一緒に入るのも禁止! 同じ布団に入るのも禁止! おそろい寝巻きを着させようとするのも禁止! と言いますか、これは元々お願いしているんだが今回は本気だぞ朝倉」をトッピング。
 目の前の顔は、これ以上ないほどのしたり顔。
 なぜこうなったの? これを見て私の頭の中のいらない衝動がグローブをはめてしまった。どういう風に考えても呑みたくない禁止条例だったけれど、私は答えることにしたわ。別にそれでも彼の元には行きたくないと。
 そんな答えを予想していなかったのでしょうね。キョンちゃんはわたわたからからと家に教科書と鉛筆と私が朝一で作った弁当を忘れてきたような顔で焦りだした。本当に忘れたら許さない。 
「お風呂はいいとしよう、布団もいいとしよう、寝巻きは勘弁してください」
 さてね、しらないわ、どうしましょうか。
「とにかく頼むからちょっと触るだけでも話してきてはくれませんか」
 逆にお願いをしている状況に早変わりしたので私のいらない衝動は終了のゴングを鳴らした。右手のひらで左ひじを持って腕組をしてその旨を伝えることにしましょう。
「最初から素直にお願いしていれば良かったのよ。これで分かったわよね。キョンちゃんは私には敵わないって」
 キョンちゃんの顔がすこし赤めづくと、左上交差の腕組をしてそっぽ向く。
「もう、勝手にしなさい」
「……あらら、もしかして拗ねちゃった? ねえねえ、拗ねちゃったかしら?」
「拗ねてないぞ、拗ねてないっ」
「キョンちゃんは……仕方ないわね」
 後姿の拗ねっ子を包み込むかたちで右腕をおなかあたりに回し、左手の平をポニーテールの付け根の前へふわりとのせた。
「よしよし……」と前方へ二回移動させる。

 ッバ!

「ばか! な、ななにっしてるんだ!?」
 右回りで仕切りのカーテンへの方へ大きく後退ると、口元と頭頂部の擦ったあたりを即座に隠して反応。涼宮ハルヒと朝比奈みくる(は寝入っているけど)が居る状況ではちょっと耐えがたかったのかしらね。
「なにって、よしよしって宥めていたのだけれど……足りなかった?」
「足りすぎだ! って、足りすぎってなんだ? ばかばかあさくら!」
「Get away!」
 上級生の肩を抱いていた少女が一声を上げる。
「あんたら少しは周りの幸せ考えなさいよ! 見ていてミートパイ投げつけたくなるわ……」
 キョンちゃんはハニカミ笑顔で波形源を見つめ、かたや私は笑顔で見やってみた。
 まあまあ、有希を助けに行く途中だって言うのにこんな無緊張地帯になっていれば怒りたくもなるでしょうね。それとも他の理由?
 兎角、涼宮ハルヒには言われたくは無かったわね。




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