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きみの瞳に映る わたしは何色ですか 赤深き望むなら 渡そう陽の光を

第76幕
 あまり見ることの無かった地元の空は、脂肪の燃焼を手助けする烏龍茶を濃くしたくらいに晩天で、気持ちのいいほど晩雲の無い、一万カラットの輝きを放っている。
 五十階建てはあるんじゃなかろうかと思える人類の叡智のかたまりの最上階、四方に立つ赤いランプの中には、ヘリコプター専用駐車場とでも言いそうなまあるい陣が黄色の線で描かれているのをこれまた四方の白いランプ (と言っても、ランプというほど小さくは無い) で照らしていたりする。
 ヘリコプターと呼んでいいのか分からない代物は黄色い円の中へと垂直に降り立ち、両端に付いている危なっかしい二つの羽はすっかり息を止めようとしていた。
 まさか繁華街の近くにこんな場所があるなんてことは、ハルヒコに振り回されていれば考える暇も無いし、その前からも気にしたことなんて無かった。そもそも、空にヘリコプターや飛行機を認識することなんて、あの古泉一姫のしつこさに匹敵する爆音をバタバタバタバタ轟かせてくる時くらいである。外で聞いたのなら、見上げて音の出所を探すこともあるだろうけど、中で過ごしているときはテレビやゲームや昼寝を妨げる疫病神の何者でもないわけだ。(勉強? そんなものハルヒやハルヒコにでも任せておけばいい。) そんな厄介者の行く先など知りたいと思うだろうか。あたしはただ、はやく消えてくれ~と願いながらソファーやベッドで丸くなるだけだだったね。あたしの興味を引きたいなら、ハルヒコじゃないが、宇宙船でも宇宙船艦でも、神の龍でも飛ばして来ていただきたい。
 いや、やっぱり何も飛ばしてほしくは無い。

 こちらの世界の古泉くんが言うには、このビルは管理人が一人いるだけの『機関』ご用達の着陸施設なのだそうだ。なんて贅沢。一部屋、いや、一つのフロアごと譲ってほしいね。
 二時間ぶりに外の空気を吸ったと同時に、彼が目標の人物に携帯で連絡を試みようとしたのだが、タイミングがいいくらいにヘリの出発地点に忘れてきたのを思い出したらしい。公衆電話を使うという手もあったが、あいにくお金なんていう高尚なものをバカンス気分でいたあたしたちは所有していないし、彼以外に目標の人物の電話番号を知る者がいろうはずもなく、彼はまたハルヒにお叱りを受けていた。
「ま、いいわ。それより、キョン。本当にあのアーケードの中にいるんでしょうね?」
「ああ、それは間違いないはずだ。『休日は毎日、俺は彼女ゲットに男を賭けるぜ! WRYYYY!』とか涙が出そうな決意を爛々と語っていたからな」
「じゃあ、早速手分けして探しましょう。あたしとみくるちゃんは東口の方を探すわ、古泉君とキョンは西口、キョン子とその横のアンタは南口の方向を探して、一時間して見つからなかったらいつもの喫茶店に集合! いいわね!」
 指示された五人がおのおのに了承の言葉告げると、ヘリを背にしたハルヒの周りに立つ隊形から、角にある下へ続く階段へと向かう古泉君に続いて歩き出していく。
「……朝倉涼子!」
 皆と少し遅れて歩き出そうとしていたあたしの右横にいる、ジーンズ生地のホットパンツと赤紫色のタンクトップに、二丁分の革製ホルスター(本人が言うにはハンティングナイフ入り)を両脇にぶら下げてるという相も変わらずふざけた格好をした青髪ポニーテールの苗字と名前を呼び付ける。
「なにかしら?」
 朝倉があたしの片手じゃ掴みきれない髪の束を翻しながら、いつも通りの腕組でいるハルヒに振り返る。

「樹、静まらんと欲すれども風止まず、子、養わんと欲すれども親待たず」
 呼び止めた相手が振り返り終わるのを確認して、ハルヒが言う。
 なんだ、お前も呪文が使えたのか、ハルヒ。
「ちょっと時間が経ったけど、さっきのアンタの独り言に対する感想よ。せいぜい、後悔なんて時間の無駄遣いをしないように、正面から向かい合って接しなさい」
 魔術師のような言葉を吐き捨てた、横暴が特技の勇者様は言い終わる前に歩き出す。その姿を朝倉は、一寸だけ目を閉じ、開いてから、あたしたちの横を通り過ぎるその魔法剣士の姿を眼で追いながら返答する。
「随分、回りくどいわね?」
「うっさい。はやく探しに行きなさい」
 引き止めたのはお前だろうに……それ以上の会話は無く、ハルヒも角の階段へと向かって行き、建物へと身体をを吸い込ませていく。
 まったくもって、さっぱりだ。呪文が使えるなら、その効果を説明して貰わんと立ち回り方が分からなくて動くことなんて出来ないぞ。といっても、呪文をかけられたのはあたしではない。かけられた本人は、首にかけた紐の先にある青くも金色の六面体ペンデュラムを右手の中で握り締め、
「言われ、なくとも」
 と呟いた。
 ふと、あたしも胸のペンデュラムを、北高制服ではない紺のブレザーとネイビー、ブラウン、グレーのチェックスカートの制服の紐ネクタイをさせられた白いワイシャツの上から握り締める。
「行くぞ? 朝倉」
「……ええ、そうね。さっさと捕まえて、次のステップを踊りましょうか」
 雲がなく月の光も十分な空なのに、星の光が少ない晩天の下、小さくも青の中に黄色の星が二つ、煌いていた。


 どうでもいいが、朝倉。その格好は確実に捕まっちまうぞ。

 
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