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ブルース 飛行機雲と河川敷

第75幕
「いいわね、キョン。これからこのトビラの中を覗いたり、聞いたり、味わったりしたら即、磔刑に処すから!」
 操縦席と、待合室と言うにはあまりにも重みのある深緑色をした鉄の壁に囲まれた空間を同じ色をした引き戸でバシャンと閉めて、自分の荷物がある席へとハルヒは戻っていく。
 天井は、朝倉の頭が背伸びをすると付くといった高さと六畳あるかないかの広さであり、照明はほのかに明るい間接照明になっているし、四人同時に着替えるのには支障はない。仕切りがないという以外は理想の環境だ。
 この環境で着替えるなんて考え、かつ実行できる種族はなんとも羨ましいね。そこに痺れて悋気を覚える。本当はこのヘリに搭乗する前にひっそり着替えたかった。このあたしにもたれ掛かろうとしたけれどその目標とした肩を右手で邪魔されたので諦め、無表情とも、笑顔とも取れない口角を保ちつつ見つめ続けている青髪長髪の自称女子高生に自分の荷物とともに即座に連れて行かれた為にここで着替えることを余儀なくされているので、腹を据えるしかない状況なのである。
 秋の紅葉を切り取ったかのようにつややかな長髪をした朝比奈さんや、健康的な黒髪ショートヘアーに黄色のリボンを絶やさないハルヒ、そして背中に視線を感じ続けているあたしはそれぞれ背中を中央に向けて桃・赤・黄色のハンドバッグやショルダーバッグから着替えを取り出し、着替えようとしているのであるからして、そろそろ自分の着替えに専念したらどうなんだ朝倉さんや。
「そんなの、もう終わってるわよ?」
「そんな馬鹿な」
「……っね?」
「速すぎるぞ。一体どんなコスモパワーを解き放った」
「月の三稜鏡パワーでメイクアップを少々……かしら」
「どんなご趣味ですかそれは」「まーた無駄な知識を仕入れてきなすって。あたしだけの時ならともかく、朝比奈さん、ましてやハルヒの前でそんな美少女戦士パワー使うんじゃありません!」
「そんなこと、気を付けてるに決まってるじゃない。彼女たちが後ろ向いた瞬間にコスモを爆発させたわよ」
「おまえの能力はいつからそんな現実味のないものになったんだ。もちろん、もとから現実味はないが」「だいたい、それまだ水着じゃないか。それが私服だとはあたしは到底認めることは出来ません。KEEP OUTものだろ、それは」
「どうして? ただジーンズ生地のホットパンツと赤紫色のタンクトップに二丁の革製ホルスターを両脇にぶら下げてるだけじゃない?」
「胸下から腰まで生地ないし、90%裸体じゃないですか! ホルスターって何だ!? 長門を探しに行くだけだぞ? どこの無法地帯と勘違いしてるんだ。いいか、これから行く街は休暇をとってベガスに行く神様を祭っている教会も、マフィアを取り締まってる軍隊崩れのスカーフェイスな姐御さんも居ない、至って平和な街中だ。しかも、ホルスターの癖に入ってるのナイフじゃないですか! どんだけナイフ好きなんだ朝倉っ! もう、いい……いいから早く着替えた方がいい。あたしと一緒に街中を歩きたいならな」
「大丈夫よっ。どんなに街中の視線を集めても、わたしの視線はキョンちゃんだけを向いてるわっ!」
「前見て歩け。と言うか、前だけ向いててくれて結構です」
「もー、そんな全身隠れちゃうような旧式教育機関指定水着とパーカーを羽織ってるから認められないのよ。さ、早く着替えて着替えて!」
「って、勝手にパーカー脱がすな!」
「あ、宙に舞うブラウンポニーテールが私を誘惑する――わたっ!?」
「いいから黙って向こう向いててくれ、鼻水たらした甘えんガールじゃないんだ、自分で出来る」
「うう、髪の生え際にチョップなんて……やるようになっ――たうっ!?」
「もう、おまえの軌道修正が取り返しの付かないことを気付かされてしまった気がする」
「キョンちゃん!」
「何だ」
「私はキョンちゃんを無理やり着替えさせたいわ!」

「変っ態じゃないですか!!」

「だって、こんなシチュエーションもう二度とないかもしれないじゃない!」
「無いよ。もう一生無い。きっとあたしがやらせません」「いいから、手を後ろに回して、顔は天を仰いで、口は黙って直立不動を保ちなさい。みろ、もうハルヒたちは着替え終わって……………………え?」
「…………ぅ、うう……ひっく、ひっく」
「なんで、泣いてらっしゃるのですかね。朝比奈さんは……」
「まあ、こんな所かしら。うん、なかなか良く似合ってるじゃない、みくるちゃん!」
「よく似合ってるって、朝比奈さんが着てる服。真っ黒の、革っぽいつなぎ、なんだが? ハルヒ、おまえさんはTシャツにクロップドデニムだっていうのに……またか、またなのかハルヒ、また朝比奈さんを無理やり着替えさせたのか。しかも大きく開いた胸元から察するに、インナー無しじゃないか。隙間も少しあるし、サイズ大きめだろ。わざとか、わざとなのかハルヒ」
「いわないでくださぁい……余計恥ずかしいです~!」
「ああっと、すみません、朝比奈さん。悪気は無いんです。悪気は無いんですよ、本当」
「サイズは分からなかったのよ。インナーは必要ないわ、だってみくるちゃんだし」
「ひどい差別だな。まあ、確かにパッド付きみたいだから、スレスレ安全圏だとしよう。だがな、ハルヒ。いつもはBWHぴったりのコスプレ衣装用意してるのにどうしてこの革つなぎはだぼっとしてるんだ」
「何でぴったりだって知ってるのよ」
「そんなもんこの前のメイド服姿で分かるし、あのメイド服を着こなせてるのが分かれば、この革つなぎのサイズも分かるはずだがな」
「キョン子、アンタすこし煩いわね。犯人を追跡するときは、だぼっとした革つなぎで青色の二百五十一cc以上のバイクに跨って追いかけるのが上等なのよ。あんまりアタシに文句つけるなら、アンタも超ミニスカートのセーラー服かメイド服に着替えさせるわよ!」
「あ、いいわね。それ」
「同意をするなよ蒼髪ダーティー崩れ。私まで非日常衣装になる必要はって、なんで二人とも、そんなおっかない顔でにじり寄ってくるなぁ!」
「「さあ、お楽しみはここからよっ!」」(ハーモニー)
「上等だよ……上等だ。そんな理不尽、あたしの意地で防ぎきる!」(勝てる気がしないけどな!)


 なーんて事があのヘブンズドアの向こう側で行われているのかもしれん。
 目の前に流れる広大な青のキャンパスに、女子が居るのに男同士で二人きりという、花見に着たのに枯葉だけだったようながっかり観光気分を紛らわすべくエルドラドを描き始めていた。
 磔刑? 細かいことは気にするなとおばあちゃんは言っていたね。
 そんな俺の思考を攻める男子が居るだろうか。いや、居るね。少なくとも今は、なぜか目の前で攫われていった長門有希の安否を考えるべきだった。すまん、長門。
 贖罪の言葉を述べるように、スイッチが入りっぱなしのマイクへ言葉を投げかける。
「それで、今回はどういった仕掛けなんだ。ちゃんと長門は戻ってくるんだろうな」
「そのことなのですが。僕は居酒屋での会話を聞き取れても、外から洋館の中の会話を聞き取ることが出来ませんし、学校の机から落ちるボールの行方を予測できても、エンジェルフォールから落ちるボールの予測は出来ないのですよ」 
「イエスサーかノーサーで答えてくれ」
 水風を起こしながら二基のプロペラシャフトエンジンを高速回転して、順調に航海を進めて行く速度は一定で視界は良好。航路を遮るものも無し。何万光年と離れた星々と本当はデコボコの癖にピッツァのように丸いお月さんが旅の途上を照らす。
「出来れば、驚かずに聞いていただきたいのですが。今回の事件に、僕はまったく関与していません。先ほどから『機関』に連絡を取り続けているのですが、まったく応答がないのです」
「……マジか」
「マジです」
 思わず操縦士の顔をみて、否定してほしい気持ちを訴えた。だが、その顔は誰もが分かるように筋肉が強張っている。
 古泉は大変なものをエンジェルフォールから落としていきました。
 長門の行方です。



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