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戦 う 決 意 

第74幕
「皆さん、こちらです」
 Nの字を縦に崩した形の二つの円筒付きプロペラが上を向き、左右に大きく広げられている記憶に新しい鈍色の機体に開いた入り口へと、洋館から出てきた俺たちを丁寧に仰ぎ手で誘導する古泉は、その筋の喫茶店にでも案内するかのようだが、残念かな、その入り口の先に待っているのはぬくもりのある木製のテーブルやビロード張りの椅子でもなく、ただのビニールソファだけである。しかも、案内役がアロハシャツにアンダーはネイビー色の七部丈ズボンときたものだから、高貴なフレグランスの欠片も有り難さもあったものではない。なれるとしたら、アトラクションの案内看板くらいではなかろうか。
「中に入ったら、しっかりとシートベルトを締めて待機していてください! 機体が安定するまでは立たない様にお願いします!」
 それでも、この大きな声を放いつつ整った顔立ちには、どんな適当に繕った服装であっても格好が付くものだから怒りの矛を取り出したくなる。けど、突き出したところで鉄壁の盾でいなされるのが関の山。ああ、こんなことを何回思っては記憶を消してきたのか塵の山。なんとも不毛な思考で、生まれ出でたこの顔を変える様を放送するコロシアムに出たくなってくる今日この頃の日よりは、雲量3といった具合の夕暮れ真っ盛りだ。
「あら、意外に高さも奥行きもあるじゃない。これならいけそうね」
 赤色の手提げバッグを肩から提げて一番乗りのハルヒはまだパレオの水着のままで、開口一番そう言い放つ。

 なにが"いける"のか。
 大体は察しがつく俺の頭の中には (SOS団マイナス1) プラスαが部屋に向かう前に言った「私たちはこれよりこの洋館を放棄します。各自、必要な荷物を持ったらすぐにヘリポートに集合! 着替えてきたりしたら承知しないわよっ!」なんて急かしたハルヒの言葉によるところが大きい。
 機内の全員が水着という状況を前に、果たして何人が我々の本気を感じ取ってくれるであろう。

 つまり、こうだ。
 1対1の峠バトルで相手をコーナーで抜きたいときに相手より内側を攻めるためにタイヤの一つを溝に落とすこと。あるいは、コーナーで浮上装置を使って相手の車体の上を飛びながらコースを曲がって相手より先へ行くこと。あるいは、遅刻ぎりぎりの時間に朝食を抜きたくないというときに、走りながら食べるフレンチトーストやアンパンやタイヤキを咥え、街角を目指す。という手法のことである。ここで、何が言いたいのかと聞かれるならば、それは一方の動作をしながらもう一方の動作を行おうという時間の短縮をねらっているだけなのだと答える他はない。そして、次に俺がハルヒにかけられる言葉はこうだろうな、『早く乗りなさい、バカキョン!』

「分かってるならさっさとしなさい!」
 一度乗ったハルヒがわざわざ降りて俺の背中をぐいぐい押し、乗せ、蹴って来たっ!?
「っってえな!」
「さっさと助手席に座りなさい!」
 しかも的確に肝臓をねらってくるだと……!?
 いやなに、いまさら我がパワフル団長に謝辞の言葉なんて、期待してないがね。流石にイエローアロハシャツ一着にかなり答える衝撃だよ。
 蓄積した恨みを視線に込めて照射してみたものの、ハルヒには一撃必殺の呪文は効かず、意も介さずにくるりと体を翻すと、電車のような両サイドロングチェアの左側へと腰を下ろし、左隣の落ち込み続ける朝比奈さんや向かいに座っている壁に寄りかかって力の抜けたキョン子と、キョン子に寄りかかろうとしているのを、対象者に右手で受け止められている朝倉に倣うように腰にシートベルトを締める。
 ハルヒの腰の辺りでカチッっとする音と同時に古泉がドアのロックをして俺の反対側の席へと座り、少々重々しいヘッドマイクを手渡してきた。近い方の手でそいつを受け取ると、差し出してきた手はすぐにもう一つ同じヘッドマイクを手にして頭に装着した。なんだか、無言で指図されてるようなのが鼻に掛かるが、このヘッドセットで大喜利なんてやる趣味はない。仕方なく俺も、古泉と同じように頭にヘッドマイクをセットオン。

「しっかし、本当に大丈夫なんだろうな」
「大丈夫ですよ。我々『機関』の人間は、ちょっとした事を学んでいたりするのです。紅茶の入れ方然り、チョコレートケーキの作り方然り、そして、VTOL機の操縦方法然り、です」
「そうかい」
 憎たらしいザラメボイスがヘッドフォンから両耳に立体音響となって襲ってくる。と、同時にそのザラメ機長にも、加工された俺の声が両耳に伝わっているはずだ。
 じゃあ、今度はボードゲームの攻略法でも学んでおくこったな。もしくは、右手をひねって銀色の玉を弾き出しつつ大当たりを狙うゲーム台の攻略方法でもいい。そしたら俺も喜んで授業に出ることだろうよ。玉が駄目ならカードでもいいな。なんちゃら大戦とかの通信対戦型ボードカードゲームもあることだしな。
「長門さんを無事助け出したら、提案することにしましょう」
 一体誰さんに提案するんだろうね。
 そうやって結論を先送りにしながら、俺と古泉の間にある大き目のディスプレイをながーい指先で叩いていく。どうやら、そこには理解不能な数値や、確実に時間を表しているとは思えない針や円グラフにみえる図形が移り変わっては消えていく。適当に突っついているだけなのではないかと疑ってしまうが、、このファニーフェイスからはどういう心境か読み取ることは不可能だ。もし飛べなかったら古泉がハルヒに怒られるだけだし? 別にどうって事ないがね。
 せめて墜落だけはしてくれるなよ、副団長さん。なんていいたいところではあるが、こうしてみてると副団長なんて名前は似つかわしくない。ディスプレイを指で叩いていくだびに、やはり、こいつは『機関』とやらの人間なんだと非現実感をたたきつけられるね。
「大丈夫ですよ」
「お前の大丈夫はどこか詐欺師っぽいぞ」
「ふふ、そうでしょうか。確かにこの機体の試作段階では多くの人命が失われ、未亡人製造機なんて呼ばれたときもあります。ですが、安心してください。その険しく厳しい丘を乗り越えて完成された機体なのです。安全性には十分な試験結果が出ています。それに――

 どこから取り出したのか、左手に白い手袋をピッっと嵌めつつ吊り目気味の目線で言い放つ、

――私はアクマで、副団長ですから」

 契約破棄を申請する。
 白い手袋は操縦桿をにぎり、俺たちの目の前の大パノラマを映し出す無色透明なスクリーンは岩肌と青鈍色に橙色が混じって黒っぽくなっている地面を右端へと薙ぎ払う。
 左右にあるプロペラで残像の円を作りながら機体は左回りで旋回し、通ってきた洋館の連絡ドアを横切り、岩肌を横切り、連絡ドアと正反対にある、裕に1キロメートルはあるであろう滑走路へと身を進めていくのであった。



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