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側に居れるだけで 同じ時間に居られるだけで

第72幕
 岩肌の双璧。
 わたしたちを取り囲むそれは簡単に脱け出せそうなほどに低く、眼球と視覚野が映し出す映像の中央に行くほどに無くなっていく。
 けれども、岩肌の上には山吹色とも丹色ともとれる空、下には頬の染まった深い群青色と淡い水色が広がっていて、わたしたちをそう簡単には脱け出せなくしている。
 砂浜から8メートルは高く、人の手で舗装されたであろう石の上に腰をかける。
「涼しいわね。水面から湧き上がる風が心地良い……」
 言ってみて、自分に笑ってしまう。
 少し前まで、そんな些細なことにさえ目もくれずに動いていた自分が言っているとは思えない。こんな風に眼下の砂浜でパラソルや敷物や玩具の片づけを手伝っている彼女を、花畑で戯れる子犬らを慈しむ目で見ることを忘れていた。見えない首輪を必死になって引っ張っていただけだったから。
 つがいの、白い鳥が飛んでいく。
 2羽ともが同じ羽で大きく空を掻き分けながら並んで水平に飛んでいく。
 全てが同じと言えないわたしたちは、いったいどうして、飛んでいく。

「わたしは、ただ――――マモりたかっただけなのよ。それが彼女と一緒に居られる条件だと思っていたの。だって、求められた。求められたからにはわたしは何か応えなくちゃいけないってそう思うじゃない。だから、何があっても。どうなっても。彼女をマモろうと決めたの。でも彼女が求めていた相手はわたしだけじゃなかった。それを知ってから……いえ、分かっていたからなおさらマモろう、マモろうって考えて必死になったのよ。ふふ、笑っちゃうでしょ。ヒューマでなくヒューマノイドであって、しかも中間的存在であるはずのインターフェイスが片方に肩入れするなんて。存在破綻も甚だしいわっ。でもね、綻んでも紡いでいきたい糸があったの。それは一番身近にいたあの二人とも違うし、学校で出会う人々とも違う糸。色もカタチも太さも違う代用の利かない透明な錦の糸。最初に結んだのは彼女の方……ううん、違うわねっ、わたしが勝手に結んでいたのかもしれない。引っ張ったり、引っ張られたり、引っ張り合ったり、絡ませたりしたかったんだけど、いつもあたしが彼女に引っ張られてる方が多かったかもしれないわね。まったく、なかなか振り向いてくれないんだから。仕方ない仕方ないって、わたしは錦の糸を金糸にしたり銀糸にしたり、太くしたり装飾したり、やっぱり元に戻した事だってあった。前を向いて引っ張ってる彼女が振り向いたときにわたしの間にある糸を見て喜んでくれるようにって、ただただその想いだけを中枢に置いて行動してた。けれどね。その錦の糸がいつの日からか、だたの鎖になっていたのは、どうして? わたしはただ彼女のために愛でていただけ。彼女が喜ぶ顔を、姿を、しぐさを、言葉を聞きたくて見たくて触りたくて味わいたくて感じたくてつながる唯一無二の架け橋を愛でていただけ紡いでいただけ。それが何でこんなことになってしまっていたのかしら。そこでわたしは答えを出したわ。わたしの愛で方が生温かったんだわっ、てね。ならちょうど良い試練よね。鎖になっても愛でられるかを試されているに違いない。鎖になっても金銀白銀を織り交ぜられるか、やって御覧なさいと、どこかの意地悪い高尚ぶった存在が語りかけてきたわ。ふふふ。無駄よね。そんなことでわたしの行動を止められるなんて想ってる? むだ、無駄無駄無駄。わたしと彼女の短くも濃厚な世界を紡いだ日々を舐めないでよねって思った。わたしにかかればどんな衣装にだってしてみせる。布から金属にだってしてみせる。きっと、彼女が喜ぶ鎖にしてあげられる。だから待っていてと願ったら、途端に彼女は消えてしまったわって思ったのだけど……おっかしいなぁ、こんなのルール違反じゃない。染める液体があっても、染める布が無かったら染物は完成しない。そんなの反則、でも負けない。きっと彼女を見つけ出して、わたしの色に染めてあげる。そして見つけた彼女は以前のままの色でいて、どこか違った色もあった。その変化に気付けなかった私の、完敗」

 全てを思い返すように目を瞑りながら、一気に吐き出した。
 2羽のつがいは遥か遠くの空彼方。袖風ほどの空気に蒼髪を撫でられつつ、視線を落とすと話題にもあった彼女の瞳と交差する。互いに一寸驚きつつも、わたしは微笑みながら右手の平を見せながら左右に振った。
 彼女は右手を頭の位置まで挙げ、ゆるりと手首をスナップしながら栗色化粧のポニーテールを躍らせてその場を後にしていく。少し物足りないから、上がって来た時にもっと補給することにしましょう。……何を? だなんて野暮よね。
「あんた、変わったのね」
 左耳を基点として後方32度から憎らしかった声が響いてくる。特に抑揚の無い、写真立てにでも吐息を漏らすような感想。
「ええ、染められちゃったもの。もう、真っ白にねっ」
「勝手に話しておいて、何が何だかさっぱり分からないわ。人に説明するときは筋道立てて主観少なく話すことね」
「ええ、そうね。なら一つだけ、言わせてもらっても良いかしら?」
 "ええ"とも"イヤよ"とも言わない彼女の視線はきっと真っ直ぐ空と海との境界線を見つめているでしょうね。予測の域を出ないのは、わたしの視覚野がこの銀河系の主系列星に海が口付けしようとする様を眺めているからに他ならない。
 その様を見届けることなく、わたしは言うことにする。
「今まで勝手に憎んでしまって、ごめんなさいね」
「……」
 二人の間に言葉なく。
 静かに勢いを増した一陣の風が吹いて行くばかりだった。

























 風……? いえ、これは――

 

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コメント

No title

久しぶりの更新

No title

woyunさん>コメント有難う御座います!
そうですね、久しぶりです。
久しぶりの更新が似合ってきたHPの管理人の百武魔です。

次回も、久しぶりにっ!(反省ZEROかYO!)

No title

UNIQUEってこんな書き方だったんだ 勉強になったわ(笑)
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