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今は前だけ見ればいい 信じる事を信じればいい

第69幕
「皆様、中は大変寒いのでコレをお召しになって下さい」
 そうやって眉目秀麗の、歴史を感じさせる執事さんから渡された人数分のパーカーをハルヒから順々に貰っていく。あたしたちの目の前には、祠というには大きく、深すぎる洞窟が続いていた。誰だ、祠だなんて言った奴は。
 そういや、洞窟の中は外の空気と5℃くらい違うと聞いたことがあるな。この前、進入せざる得なかった洞窟ではハルヒコの馬鹿のせいなのか、10℃くらい寒く感じた気がするが。なるほど、確かに夏と戦う為の格好で中に入ったら風邪でも引いてしまいそうだ。そういうところにきちんと気が付く執事とメイドのお二方はさすがとしか言いようが無い。大体、水着で入るなんておかしな話だ。着替えてから出直すって手もあったんじゃないか、ハルヒ……を見てみるとお礼を言いつつも、早く中に入りたいのに入れないようで、その原因はのっそり歩いてくるマヌケ面の集合を待っているからであろう。
「ほら、キョン! はやくはやく!」
 ジョギングをしている途中で信号待ちをしているような仕草で急かすハルヒだったが、相も変わらず彼の歩く速度は一般的よりも少し遅めの速度で、右手をひらつかせているだけであった。
 それもこれも、きっと時間稼ぎだ。
 あたしは彼が作ってくれている時間を逃さないように、有希と朝倉に近づいていき、少し近づき過ぎな程の距離で有希の横に立つ。
「有希、あのさ」

   スッ

 有希の左腕が動き、あたしの右手に何かが当たる。
 右手の裏を覗いてみれば、どっかの少年に『死ぬほど痛いぞ』と言われそうなスイッチだけの棒が在った。もちろん大きさは手のひらサイズで収まる……これは?
「貴方が危険だと判断したなら……押して」
 あたしは有希を見た後に、先程からじっとあたしを視線で刺している朝倉を見やる。今の朝倉と話すのに、それほどの覚悟を決めろってのか。
 有希は分かっている。今の朝倉がどんなに箍が外れているかを。
 有希は分かっている。今のあたしがどんなに不安定であるかを。
 そのための保険。朝倉を――消す、ための―――
「いや、要らないよ」
「……しかし」
「有希。あたしは覚悟が必要だからこそ、保険はかけない」
「…………そう」
 ミリ刻みの定規目盛りじゃ測れない程の角度で俯きながら、朝倉の拘束を解く。といっても右手を離しただけだけどな。どういった仕組みなんだか。
 つかまれていた左手首を胸の前で摩りつつ、向かい合う。
「キョンちゃん」
 コレが出来なきゃあたしは消える。生きていても生きちゃいない。失敗すればもしかしたら、あたしは・・・朝倉に――――
 そうやってあたしは、彼が到着するまでの間。自分の覚悟と向き合っていた。
 
「キョンちゃん、スク水似合ってるわ――いたっ?!」

 デコピンしてやった。


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