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不安になるの 不安になるの

第56幕

 さて、最大にして至高の作戦が破られてしまった訳だが。この窮地を乗り越える戦術を駆使できる軍師か策士は居ないものかね。この際だ、馬に乗って逆落としでも、十発のミサイルの中に一つだけ核弾頭を混ぜて巨大な隕石を攻撃する作戦でも何でもやってやるぞ? 馬は・・・確実に落馬するだろうがな。
 最早問い詰められているだけだが・・・これが口論ではなく、力と力のぶつかり合いであったのならどんなに楽だったろうか。共通する言語を得た人類は、戦争よりも高度な、口論という術を得た事をもっと誇りに思っていいとさえ感じるあたしは涼宮に対する反撃の語句を得ていないわけであり、どんなに考えていたところで、本当のことを隠しながら、あたしと彼とはどういう関係なのかという問いかけを推し進めるのが困難であるのは自明の理である。では、どうやってこの疑念の鎖で固められた密室を脱出するのかだが、それはもうあの方法を遮二無二行使するしかない。

 『三十六計逃げるに如かず』

 まったくこの子は。右眼は隠れてるから分からないけど、左眼は泳ぎっ放しじゃない。あんなんじゃ次に何を言ったって、嘘です、って言ってるようなものね。
 自分では隠してると思ってるんでしょうけど、思ってる事が眼に見えて分かるのよね。外見だけじゃなく、こういう・・・仕草もって言うのかな。やっぱりキョン子って、どことなくあいつに似てるわね。今のキョン子の慌てふためき様で『従兄妹』なんてのじゃないのは分かった。でも、そうなると、何でこんなにもあいつと似ているのか分からない。こいび―――好き同士は日々を重ねるうちに似たもの同士になるって聞いた事があるけど・・・まさかね。だって、そしたら、あいつとこの子が、それだけ深い関係だって事で。そんな関係である事をアタシは認めたくない・・・のね。だから、

「涼み、」
「キョン子」
 蚊が飛ぶ音よりも弱々しいあたしの声を掻き消すように、大人気のケーキが二つあってどっちか選ばなきゃならな・・・いや、意を決した涼宮の声が部屋に、しん、と広がる。
「もう貴方の素性は訊かないわ。でも、一つだけ教えて欲しいのよ」
 前髪を垂らし、指先に掴まれた寝巻きの影が深みを増す。
「キョン子は、あいつと、その……」「つまり……」
 涼宮にしては珍しく歯切れが悪い。顔を左右にゆったり振りながら質問事項を吟味しているようだ。
 あいつ? この会話の流れで言うと、彼、キョンの事だろうか。あたしと彼の素性は訊かないってのは、『従兄妹』であるか否かを問わないって事じゃないのか? なのに、「あたしとあいつは」の文章に続く質問とはどういうことなのだろう。
 従兄妹、家族、養子。体面的な役柄を問わないとなれば、後は内面的な結びつきの話。それと今、涼宮の、最初は勢いがあったのにどうにも釈然としない様子を併せて算出された回答は・・・ああ、なるほどな・・・これが、岡目八目って奴なのであろうね。

 そう

  涼宮は――

   キョンの事が好きなのだ。


「大丈夫さ、涼宮」
 彼女の顔に光が当たり、雨の降り始めが身体に触れたのかのような表情を見せる。
「あたしとキョンは涼宮が思っているような関係じゃないよ。好きな奴は居るけど、少なくともあいつじゃない。だから、安心して良いんだぞ」

   ちくっ

「な……う」
 虚空を探して泡を食う涼宮ハルヒ。裸足になっている彼女の指は丸まっている様で、そこから連なる膝と膝は擦り合い揺れて、余波が上半身にも伝わる。
「何言ってるの!? ほんと、キョン子は存在も行動も言動も意味不明だわ。もう、さっさとお風呂に入って来なさいよ。早く寝る準備してくれないと電気消せなくて困るでしょ! ああ、それとさっきからずっと気になってたんだけど、アタシの事はハルヒで良いって言ったでしょう? 今度、また同じことがあったら胸揉んじゃうから、覚悟しなさい!」
 あいあい、おっと、思わず口角が上がってしまうね。こんなに綺麗に釣りあがるとは思わなかったからな。
「何が可笑しいの、キョン子? 早く行きなさい! 団長命令!」
 後ろ髪が揺れるのを感じ取りながら椅子を離れ、扉に向かって招きよせるように左手を振りながら部屋を出る。
 団長命令か・・・あれ、いつの間にか団員になってるのか? あたし。

 ハルヒの強引さに感服しつつ、あの凶獣じゃじゃ馬娘を止められる存在が雲の上以外にも居るのかもしれないと思った、あっという間の一日目であった。
 






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