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でも 精一杯送っていた 沈めた自分から

第54幕

 テーブルの上には、赤、紫、青、白緑といった色とりどりのご飯と烏龍茶が入ったコップが四つ置かれていた。ハッキリ言って、人が食べれるものとは思えないぞ。
 あたしの目の前には妹ちゃんが座っている・・・ちゃん付けで呼ぶのも何か変な感じがするが、本当の妹でもないしな。これが適当だと判断した・・・そして、テレビが一緒に視界の中に入る、横の椅子に座る彼の前には涼宮が座っていて、食卓の真ん中には、A,B,C,Dと名前の付けられた四本の縦線と、複数の横線を絡ませた線を書いた白い紙が置いてあり、あたしたちを悩ませている。主にあたしとキョンを、だけどな。
 今、薄い紙を二枚重ねにしたものを更に多く重ねてウエハースにした中身を取り出したティッシュ箱を手にしている涼宮が言うには、A=紫、B=青、C=赤、D=白緑、としてあみだくじをするようだ。では、下のほうには何が書いてあるのか? それがあたしたちを悩ませている問題だった。これを自分たちで書かねばならないとはな。

 ①、②、③、④の数字がある。

 これを・・・例えば縦線Cが「②」となるように書いたならば、Cを選んだ人が②番の席の人に、この食べ物とは思えない食事を与えるというものである。もちろん、強制的に、無理やり、ごり押しで、だ。
 空のティッシュ箱の中には①~④と書かれたクジが入っており、それを引いて席を決め、あみだを開始するのだ・・・勘弁してくれ。

 そうだな、もう悩んでも仕方ない。適当に「③」と縦線Cの下に書き入れた。あとはこの部分を折って隠して完了。既に縦線A、Bの下には数字が書き入れられているらしく、同じように折り畳まれていて、空白は後一つ。ってことで、右側に紙をまわす。彼が数字を書き入れてその部分を折り曲げ、食卓の中央に戻すと、涼宮が大人気ケーキ屋の行列を一時間待っていたような口調で言葉を放つ。
「書いた? 書いたわね。じゃあ、これからクジを引いて貰います! じゃあ、まず妹ちゃんから!」
 急がなくとも、食事は逃げないぞ涼宮。それにこの前衛的な炒飯を食べたいと思う奴がいるだろうか。
「はい、キョン子!」
 と、クジの入った空箱を差し出される。上に開いている口から手を入れて中に入っている3枚の紙切れを確認する。っと・・・まあ・・・これでいいな。ヒョイッと。えっと、④番か。
 続けて彼と涼宮がくじを引いていき、それぞれ③番と①番となったようだ。てことは、妹ちゃんは②番の席となる。
「よーし、本番始めるわよー! 私はAね! 妹ちゃんは?」
「はーい! えっとぉ、Cがいい~」
「キョン子は?」
「あたしは、Bかな」
「B? ぴったりね。ではでは……ふんふふ~んるるーんえんじ、ぇる~ん♪」
 今、小声で何か言ったかっ? 聴こえんなあ! いや、ホント・・・
 やけに愉快な歌を奏でながら線をなぞっていく少女。ちなみにキョンに聞かなかったのは意地悪ではなく時間の短縮の為だと思うから、気を落とすんじゃないぞ。そんな視線で見つめてやると、キョンはなんとも気にかけていない表情であみだの紙を眺めていた。
 やがて、折り畳まれていた三つの紙が開かれ、涼宮がペンを持った右手を振り上げて進行する。
「でーきたっ」「発表します! Aを選んだ人は③番、Bを選んだ人は③番、Cを選んだ人は③番です!」
「って、全部俺じゃぁねえか!!?」
「ちぇ。良かったわね、キョン」
「良いわけあるかっ! ハルヒ、お前ズルしてないだろうな?」
「出来るわけないじゃない。皆がランダムに数字を書いて、ランダムに席番決めたんだから!」
 両手をテーブルについて身を乗り出すキョンの額を、ペンの背中でつき返しながら反論していく涼宮。あたしは、まあ、なんだ・・・あきらめろと、肩に手を置いてやるのと同時に涼宮がペンの背中を大きく突き出す!
「うごっ?!」
「妹ちゃん! キョンを確保! キョン子はそのまま拘束!」
「らじあー♪」
「え、うん」
 涼宮の後ろを回ってキョンの右肩に釣り下がる妹ちゃん。あたしは左肩と前腕から手首の間を掴む。こりゃ、到底 "拘束" しているとは思えないな。それに彼には、まったく暴れる気配がない。
 そうこうしているうちにハルヒは、ペンを物を掬う鉄食器に持ち替えて、決してキョンを救いの道へと導かないような赤い赤い炒飯らしき物体を窪みの上に盛り合わせ、レッド炒飯ストレートを繰り出そうと左手に持つ皿と共に盛り付け済みの鉄食器を構える!
「さあ! 覚悟を決めなさい。お調子キョン!」
 彼女の髪の毛がわなわなと逆立ち、眼がぐるぐると回っている・・・これは正気?
 これを受ける彼の顔は当然鬼と死神を目の前にした苦悶と悲壮の表情を浮かべて―――居ない?!

「待ってくれ、ハルヒ」

 溶岩流の中で摂氏マイナス273.15度を保ち続ける音程と表情で言い放つ彼によって、室内は静まり返る。そして、

「こんな拘束なんて必要ない。その赤い炒飯なら快く食べさせてもらう。何故ならこれは」

 涼宮の右手首を自分の左手で掴み、彼女の眼目を射抜く、

「―――お前の手料理だからな」

 スプーンの先端が彼の口の中へと消えて行き、格納される様子が、超高速度撮影した映像を通常の二分の一で再生したかと思う速度で流れていく。三稜境か万華鏡がこのリビング全体に敷き詰められ、そこかしこで光が反射し、透明な花びらが舞う。成すがままの涼宮は、成すがままの体勢で止まっており、彼が咀嚼を開始した口元を見詰め続け、彼が手料理をゴクッと飲み込むのと同時に見る見るうちに血色が良くなって行き、

「うまいぞ……ハルヒ」

   ピィイイィィ ピイイィィィ

 涼宮の頭でお湯が沸いた。
 決まった・・・・・・これで、これ以上食べる事はない筈だ。そう、自分の兵法を褒め称えつつ、流し込んだ胃袋から発信されるメーデーと共に俺の意識はヴァルハラへと飛んでいった。

 母さん・・・僕、もう疲れたよ・・・・・・・・・ 






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