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不器用な この勇気は

第51幕

 弱肉強食って言葉は、おそらくあたしの為に生まれてきたんじゃないだろうか。
 行くわよっ、と言われて有無も言わさずに手を引かれて歩いているのは、あたしが意志の弱い人種だからじゃないのかと思ってしまう。誰かが、悪いことを悪いことと学べば、習慣づけによって意志を上手く制御できると言っていたが、それはこの隣に居る、女子高生でありながらキリリとした勇ましい表情を持つ半髪の頭にアリスバンドを付けた少女の事なんだろうな。こうったらこう、と決めたら一直線で突き進むこの少女を阻むには、獅子か豹か、包帯を全身に巻いて刀を振るう武士か神速の流派を扱いこなす武士でも必要・・・いや、居ないね。居ない。涼宮を止められる奴も、そんな剣士も武士も居るわけがない。居てもすぐ捕まるのが、今の法律って奴なのだ。涼宮を止める法律はいつ施行されるのか、議案を風船で飛ばしてくれないか。きっと施行できるのは雲の上の存在だけだろうしな。
 さて、すっかり青色を閉ざした空の下。火の色が遠くへ消えていくのを見届けながら男子二人と女子四人は家路の道を歩いている。2-2-2の正統的なフォーメーションで隊を成しているが。そろそろ涼宮に掴まれ続けている左手首が痛いのでこの沈黙を破るとしよう。
「なあ、涼宮―――」
「ハルヒでいいわよ」
 随分と楽しくなさそうな顔でお話になる。言いたいが言えない事。手を掴んで連れているのはお前だぞ? って事なんだが。本人がそう言うのなら従うのがいいよな。それでも涼宮と話しかけるほどあたしは命知らずじゃない。
「そうか。なら、ハルヒ」
「あんたさ」
「……はい?」
「何でその髪型にしてるのよ?」
 どういう意味だ。
 いやいや、これはよくある質問なのかもしれないね。初対面さながらの相手に対する会話のお題目として、相手の外見を当たり障りなく聞き始めるなんてよくあること・・・なのかもしれない。
 何故この髪形にしているかと聞かれれば、別段、深い理由もない。ただ朝の髪のセットに手っ取り早く済ませられるからだと言う他ないのだが。
「なら他の髪型にしたりしないの?」
「うーん。そういえばしたことないな」
 へえ、と十度ほど口角を上げるが、どこか毒のある感じがする。
「じゃあ、この際だから他の髪型にしてみない? わたし丁度髪型の勉強してたところだったのよねー。そうねぇ、キョン子にはツインテールとかアップとか似合うんじゃないかしら?」
「ど、どうかなぁ……」
 ぐいぐいと感情の目盛りを押し上げていくハルヒ。今まで他の髪型にするなんて事、あまり考えてこなかったので、どういう自分になるのか見当もつかないぞ。そう、前髪を弄りながら、自分の髪形を頭の中で無理に考えていると左手首の痛みが無くなり、お、やっとかと思っていたら、左眼の視界からハルヒが消える。
「どれどれ」
「キャッ!?」
 慌てて腋を閉じるが締まらない。なぜならハルヒの腕があるからだ!? そして必然的にその先の手のひら、十本の指は目下のちょっとした丘のところにあるわけでして。
「ふーん。ぎりぎりBってところねぇ」
「な、何測ってるんだ!?」
「胸のサイズ」
「分かるから言わなくていい!!」
「なぁに? これくらいで恥ずかしがっちゃってさ」と、愉しそうな声で

 これが普通だとでも言いたいのかこの女は?!

「安心しなさいよ」「こういう胸にはね、昔っからツインテールがよく似合うっていう伝説があるの! それが萌えって奴なのさ!」「そう思うでしょ、キョンも!」
 後ろで妖しく囁いたり、強弁したり、あまつさえあたしごと振り返って最後列の男子に質問したりと、やりたい放題だな本っ当っに! あれか、ツインテールになったら大金持ちになったり、魔法使えたりするってのか?! って、何言ってるんだあたしは。
 しかして、有希は無表情で――いや、若干暗い感じが――朝比奈さんは呆れて同情するような苦い笑いを浮かべ、男版古泉は笑っているのか居ないのか分からない表情で、キョンとやらに至っては顔を手で覆いつつもしっかりとこちらを見ているという・・・誰か止めろよっ! これが日常茶飯事なんですかっ?
「おい、ハルヒ。そのへんにしておけ。かの……ウチの従兄妹が可哀想だろ。大体、初対面の人にそんなことするんじゃありません」
「初対面なんかじゃないわよ。朝に一度会ってるもの」
「お前なあ……」
「そうだー! 明日はキョン子の撮影会しましょう? いいわよね? よし、けってーいっ!」
「ちょ……え……ちょ」
 すっかり髪が元通りになった後ろの男がなだめようとするが、逆効果になったようで。弁解反論の余地無くなにやらイベントの旗が揚がっていくのだが。これは覚悟を決めろってことかい?
「そういえば、キョン子はどこに泊まるのよ?」
 はひ?
「何 処 に 泊まるの?」
「ハルヒ、それは朝―――「キョンは黙ってて!」
 助け舟が沈没する。
 えっと、何やら不味い雰囲気だ。とっさに有希の顔を見るが、眼を右の方に逸らされる。というと、朝比奈さん・・・なわけないか。接点が無さ過ぎる。古泉も同じ理由で却下。というか古泉はどういうところで暮らしてんだか。そういや、従兄妹っていう設定なんだからアイツの家に泊まるのが普通だよな。なんで、考え込んだんだ。あたしは。
「キョンの家、だ」
「…………ふーん、そう。どうやら間違いはないようね」
 最後列の男の一人がほっとした表情をする。ポーカーフェイスって言葉。知ってるか?

 段々と、辺りが黒色に深まってきていた。


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